となり | じこ報告書

となり

自宅にて友と酒を酌み交わす。

酒量が徐々に増えると、それに比例して昔話にも花が咲くもので、まるで、春に舞う桃色の花弁ように、この部屋にも想い出という名の花びらが咲き乱れていた。

やがて、0時という一つの指針が既に過去のものと化した頃、辺りを静寂に包むには十分過ぎる程の来訪者が現れる。





『ドンドンドンドンドン!』





オレがもたれ掛かる座椅子の後方から、何か壁を叩くような音が聞こえる。



後方。
つまり、隣の部屋。



隣の部屋。
つまり、隣の住人。



オレはこの意味、その可能性について思案を重ねることにした…





隣人。

40~50代。
男性。
一人暮らし。
中肉中背。
4時頃、携帯のバイブ音が響き、
20時頃には帰宅している。
趣味:いびきをかく



・元ダンサーの男は、常に寝相が悪くゴロゴロと転がっている。
しかし、その動きは実にリズミカル!

イヤー!ドンドンドンドンドン!



・一人暮らしで怖いこと。
緊急時、なかなか連絡が取れないこと。
アパート暮らしでは、周辺住人との関係も希薄になりがち…
だから、男は覚えました。
モールス信号。

ツー!トントントントントン!



・若い頃から、嬉しい時も楽しい時も、金曜日の決戦の時も、朝がまた来た時も、やさしいキスをした時も、この曲を聴いていました。
オレへのアイシテルのサイン。

ンー!ドンドンドンドンドン!





分かっている。
どれも違うことは分かっている。

厚さ数十cmの壁の向こう。
男は一人、孤独と戦いながらも、静かに、それは静かに、大きいほうを済ましていたに違いない。

うっかり壁に触れたオレの右手が、放出活動中特有の安らぎを奪ってしまったのだろう。

入ってまーす!
ドンドンドンドンドン!





大変失礼なことをしてしまったようだ。
今は本当に反省している。