椿屋常連の先生にお点前を披露しつつ、

浮かない表情の滝さんです。

「ここに座っているとほっとします」

「時々こうやって帰ってきたらええやないか」

先生の言葉に滝さん、長い無言・・・・

「せんせ・・私、居場所がおへんのです」

 

ここで滝さんの回想

 

「来月、ヨーロッパに行かへんか。

 ギリシアの海は綺麗やで?」

「・・祐さん、ここ嫌いなの?」

「そやないよ?

 ときには気分転換にええやろと言うただけや」

「行ったことあらへんとこ、

 行きとない、疲れるわ」

「僕が一緒でもいやか?」

「お留守番してます」

「僕は滝さんにギリシアの海を見せたいなあ。

 この家は退屈やろ?

 それがわかるから言うてんねや、

 あんたのためにも」

「祐さんの気持ちは嬉しい。

 けど、人にはいろいろあるんや。

 亡くなった奥さまは

 ヨーロッパがお好きやったかもしれへんけど、

 私は京都が一番落ち着くんや。

 見知らぬ国の見知らぬ文化のなかで、

 刺激を受けて嬉しい年ごろやあらへんもの」

「滝さんは京女としては完璧や。

 けど外の世界をあまりに知らへん。

 いまからでも遅ないって。

 いろんな世界を知ったら楽しなるで。

 退屈もせえへん」

 

滝さんの心の隙間をなんとかしたいと、

あれこれ考え提案もする麻生センセイですが・・

優しい心遣いがちと空回りしているかも。

 

滝さんは神経をぴりぴり張り詰めていた、

椿屋での生活がすでに懐かしい、

その気持ちはギリシアの海かて癒せないと、

椿屋常連の先生に呟きます。

「御亭主はあんたが椿屋へくることを、

 嫌がってはんのか」

「いいえ・・けど私は、

 そう言われるのも嫌なんです。

 勝手なんは私なんです」

常連先生の感想。

「ええオンナほど傍にいたら、

 疲れるちゅうけど、

 あんた見てたらほんまやと思うわ」

 

麻生センセイが椿屋に来ました。

「おかあちゃまとうまい事いってへんのですか」

 すみません、こんなこと聞いて」

「滝さん、そんなこと言うたんですか?」

「いいえ、ただ・・ゆうべ泣いてました」

「そうですか・・」

「おかあちゃまが幸せになってくれんと、

 私、なんのために椿屋を継いだのか、

 わからへんようになってしまいます」

「すみません」

「せんせ・・」

「いや、すみませんと言ったのは、

 うまいこといってへんという意味ではなく、

 心配をおかけしたことを謝ったんです

 滝さんとは仲良くやってますよ

 喧嘩くらいしたほうが

 ええのかなと思うくらいですよ」

「それ、どういう意味ですか?」

「もっと徹底的に話し合い、

 奥底まで抉り出しおうて、

 傷つけおうたとしても、

 愛を、理解を深めていく、

 それこそ愛やという考えかたもあります

 小説の中では僕は、

 そういった男女をよく描くんですけど、

 滝さんとそういうふうに

 向かい合うことが出来ひんのです」

「おかあちゃまが強い人やからですか?」

「いいえ。一度傷つけおうたという、

 負い目があるからかな」

「羨ましいです」

「ええ?」

「50代の麻生センセイとおかあちゃまが、

 愛についていろいろ考えてはるのに、

 27歳の私は恋人もいてへん」

「年齢は関係ないですよ、

 いくつになっても人間は人が恋しい」

 

滝さんが姿をあらわすと、

笑いかける麻生センセイ。

「これからでかけよう」

 

出かけた先は神戸の海でした。

「神戸で暮らさへんか?

 僕は滝さんが椿屋を捨てるとは思わへんかったし

 それを望んでもいいひんかった。

 50年、お互いが大事にしたものはそのままにして、

 新しい生き方を見つけたかったんや。

 それが僕の愛情やて思うてた。

 そやから僕は椿屋の近くに家を借りた。

 けどいまみたいな状態やったら、

 京都で暮らす意味ないやんか。

 文化は京都だけやないで。

 神戸かて世界に向かって開けた伝統の街や」

「しあわせやわ。

 若い頃は50代の人は恋なんかせえへんと信じてた。

 椿屋にくる小説家の先生は、祐さん以外、

 ほとんどおじいさんばっかりやったし」

「今年の大晦日、ここで汽笛を聞こ」

「汽笛?」

「港に停泊中の船が、

 夜中の12時をきっかけに、

 一斉に汽笛を鳴らすんや。

 外国の船も日本の船も、みんな一斉にな」

「知らんかったわ」

「神戸で暮らそう、な?」

「そやね」

 

いやいや麻生センセイ、

京都が好きで、なにより落ち着く町や、

と旅行さえ拒否した滝さんに、

京都を離れようなんて、

そんな提案ダメでしょ~?

電話後考え込んでいた結論がそれ?

「しあわせやわ」と言いながら、

滝さんの顔が沈みがちです。

椿屋にアルバイト(?)という形ででも、

戻っているんだから、

「着物姿、ええなあ」

「滝さんの着物姿をこれからも見たいし」

「定期的にお点前を頂戴したいし」

とか言って、

椿屋の手伝いをさせるよう持っていけば、

丸~く収まるのではないかなあ、

と私なんぞは単純に思ってしまうのですが。

しかしこの展開って、

「お別れ」フラグが立ったということですね?

 

 

おまけ

夏の風物詩

 

夏は、どこに猫が落ちているか予測不能なので、

移動するときは注意が必要です |д゚)

 

 

 

 

おまけ