すげぇ好きって。
そんなに好きならどうしてっ。
「じゃあなんで全然連絡くれなかったんだよっ」
「や…、だって俺おまえがどんな仕事してるかとか、どんな生活してるかとか全然知らないし」
「そうかもしれないけどさぁっ、メッセージの一つぐらい送れるっしょ」
「そのメッセージの一言が…おまえの負担になるかもしれないじゃん」
「ならねえええからあああああ」
むしろメッセージがない方が超不安になって、それが一番の負担になってたっつーの!
潤さんってば、めちゃくちゃ年上なせいなのかな。
ちょくちょく、この人は恋人じゃなくて保護者だったっけって混乱するときがある。
きっと同世代とか年下が相手だったら、こんな疑問沸いて出やしないだろう。
そしてきっと、こんな辛い思いだってしなくて済むんじゃないかって……正直思ったこともある。
でも潤さんがいいから。
なにをどうしたって、なんでか分かんねぇけど潤さん以外全く考えられないんだから。
そんなん考えるだけ不毛だ。
「それに…なんでなんだよ、」
「なんでって?」
「なんでここに先に住んでてくれねぇの?」
潤さんさえ先にここに住んでくれれば、俺は後から追っかけるかたちで引っ越しだってできる。
それに引っ越しできない間も、この家に帰ってくることさえできるというのに。
この人はいつまで経っても頑なに、一緒じゃなきゃ引っ越さないだなんて。
まるで馬鹿の一つ覚えみたいに。
「俺さ…、」
この部屋唯一の家具であるソファに腰かけると、潤さんは静かに話し始めた。
「俺、苦手になっちゃって」
「苦手って…なにが…?」
「……一人で暮らすこと」
「え、」
最後のあの部屋覚えてるか?あのなんも置いてなかった部屋のことって、潤さんからそう問われて俺は「うん」と呟いた。
潤さんの言う部屋は多分、智くんと別れ、そして俺とも別れようとして、そうやって一人で暮らしていた場所のことだ。
「あの後から、どうしても一人が無理で…」
「潤さん、」
大きな両手で頭を抱えながら俯く潤さんの口元は、どこか笑っているようで。
でもちっとも笑ってなんかなかった。
「怖いんだ」
そしてその肩も若干、震えているように見える。
「可笑しいよな。もうずっと…、妻が無くなってからずっと、俺はずっと……一人だったのに」
俺は居ても立っても居られず、潤さんの隣に腰かけて彼の顔を自分の胸へと押し当てた。
そして、我慢なんてせずに泣いていいよって思った。
だって潤さんが唯一この世で、泣き顔を見せられるのは俺だけなのだから。
「ごめん、俺のせいだよな」
「翔のせいじゃないだろ」
「ううん、俺があの時…潤さんの手を離してしまったから」
「違う、それは俺がおまえのことを不安にさせたから、だから、」
「俺がもっと強ければ…そもそも不安になんかならなかった。そうだろ?」
「翔、」
悔しいかな、今ならあの時の潤さんの気持ちが俺にも分かる。
俺は潤さんの手を二度と離さないと心に誓ったから。
だから、もう二度と自分から別れの言葉を告げることはないけれど。
だけど…。
もし潤さんから別れようと言われたら、きっと心は揺らぐ。
どうしたって揺らいでしまう。
さっきまでそうだったように、いとも簡単に。
だから駄目なんだ。
好きなら別れるなんて、そんな言葉を簡単に言っちゃ駄目なんだ。
相手を思う気持ちがどれだけ強くても、その思いが強ければ強いほど。
それは相手の言葉で簡単にポキリと折れてしまう。
だから潤さんもあの時。
『おまえ、それ言ったら終わるぞ?』
『………、』
『おまえがそれ言ったら…、俺ら終わるぞ?』
『………、』
『それでいいのかよ、』
潤さんはきっと本当は望んでた。
俺が、それは嫌だと。
そう言ってくれって。
頼むから別れるなんて言わないでくれって。
別れたくなんかないんだ頼むって。
きっとそう。
思ってたんだよな。

