おにぎり超美味かった!
やっぱ潤さんの握るおにぎりがこの世で一番美味いわ!
そう言う気満々で詞を作りながら夜通し待っていた俺。
それなのにふと見た窓の外はいつの間にか白くなっていて、そのままスタンダードに朝を迎えた。
つまり……その夜、潤さんは帰って来なかった。
"ちょっと今から大埜さんと食事をすることになって"
つまりはそうだよな。
食事してそのまま大埜さんと……、一晩過ごしたってことだよな。
はぁ…くっそ。
分かっちゃいるけどかなり堪える。
胸が握りつぶされてるみたいに痛てぇ。
だけどそれって、好きだから…なんだよな。
そう。
潤さん以外の人のことでこんなにも心をかき乱されることなんてない。
それが俺で、俺のすべてだから。
誰になんと言われようが、俺はそれを黙って受け入れる。
***
そんな状況でも、なんとか、どうにか、仕上げることのできた幾つかの詞を事務所に提出して、その日の仕事を淡々とこなしていった。
早くあの人のところに帰りたい一心で。
ただいまっつって、おかえりっつって、普通に笑い合って。
その後、書く仕事がまだまだ残っているから一緒にダラダラすることはできないけれど、それでも同じ空間に潤さんがいてくれるだけでどれほど心が安らぐことか。
「ただいま」
ようやく辿り着いた愛しい人の家。
その玄関を開けると電気が点いていたから意気揚々とリビングに向かった。
けれどそこに潤さんの姿はなくて……だとしたらあそこかな?って向かった先はキッチン。
「あ、おかえり翔」
「ただいま潤さん」
良かった。
ここにいてくれた。
てか、おにぎり握ってる?
これって絶対に、俺のため……だよな。
そうだ、昨日のおにぎりのお礼、まだちゃんと言えてなかった。
「潤さん、昨日」
「あぁ…悪い。大埜さんちからそのまま会社に行ったから」
「やっぱそうだったんだ。つか、おにぎり!すげぇ美味かった、ありがとう」
「うん。今夜も忙しいんだろ?これ食べて頑張って」
「サンキュ」
差し出された皿の上には、海苔に巻かれたおにぎりが3つに玉子焼きとウィンナーまで乗っていて。
あまりに美味そうなビジュアルと匂いに、ぐぎゅるるるるると腹が盛大な音を響かせる。
そんな悲鳴に潤さんは、一旦は堪えていたもののぷっと盛大に吹き出して。
だから俺までつられて笑ってしまった。
「腹減ってんだよ!」
「ふふっ、仕事お疲れ」
「じゃぁ…今夜も部屋…借りるな?」
「いいよ」
「サンキュ…、じゃこれ、持ってて食べるね」
「うん」
あれ?
なんかやけに潤さんの表情が柔らかいというか、俺に対する眼差しが暖かいというか。
しかもそのまま俺の身体は、ぐっと潤さんに抱きしめられて。
おにぎりの匂いとはまた違った、潤さんのいい香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
嬉しい。
だけどなんでだろう。
なんだか胸騒ぎがする。
「翔」
「ん?」
「ここに寝泊まりするのは、今夜で最後だ」
「え、」
「ごめんな。俺が気付くのが遅かったから」
「潤さ…?」
「でも分かったから」
「分かったって…、」
「ちゃんと分かったから」
それ以上潤さんはなにも言わなかった。
ただ嫌な予感は的中して。
次の日仕事を終えて潤さんの家に行った俺は、すっかりがらんどうになってしまった部屋を前に、ただただ茫然と立ち尽くしていた。