一年ぶりに帰った実家では大好きだった祖母の葬式が行われていた。狙って帰って来た訳ではないのだか私がこの家に着く丁度2日前に持病で亡くなったそうだ。確かに祖母の体調が悪い事は知っていたしそれもあっての今回の里帰りだがまさかこんなに早いとは思ってもいなかった。私は祖母のあの優しい顔を見に帰って来たはずだったのに。祖母はこの家で私を唯一認めてくれた人だった。
里帰りついでの挨拶のあとは追いやられるように昔私の自室だった部屋に追いやられた。今は倉庫のようにこの家のありとあらゆる本がおかれている。座る場所のない図書室と行った所だろうか。里帰り、祖母の死、疲れていないといえば嘘になるし悲しく無いと言えば嘘になる。でもかといって疲れているという訳でも悲しくてどうしようもないというわけでもないそれこそ嘘でも本当でもない気持ちだった。
『大きな雨がふるのは誰かの大きな悲しみを、優しい神様がその涙で流してくださろうとするからだよ』
そういったのは誰だっただろう。かの有名な作家だっただろうか、いやどこかの陳腐なファンタジーの主人公の台詞だったか、もういつ聞いたのかも誰から聞いたのかも覚えてないくらい昔にそれを聞いて私は雨をすきになったんだった気がする。私の記憶の中にはほとんど滝の様の土砂降りな日々しか覚えていない。
いやむしろ、私にとって何かがある日は決まって気力も奪うような雨がふるのだ。
そう今日のような
今日は憎たらしいほどの雨だ。隙間ないほどの雲、外の色は灰色、濃すぎる雨のせいですぐ先だって見る事は出来ない。たまに眩しいくらいの雷とまるですぐそこに落ちたのではないかと心配になるくらいの大きな雷が鳴り、合間合間にはびしゃびしゃと清々しいまでに雨の音が響く。
雨は好きだ
でもなぜだろう この雨はいつもと違うように感じる。何とも言いづらいくらい気持ちが悪い、もしこの雨がこのまま一週間でも続いたら私はきっと何も出来ない俳人になるんじゃないだろうか。理由も根拠もないがそのような恐怖を抱かせるような雨だった。
『あんただけじゃなく私にだって泣かせろよ』
気付いたらそう悪態ついていた。別に泣きたいと思っている訳でもないし何かにいらついてるわけでもない。ただ今の雨を見てると行でも行ってやらないと気が済まないような感じだった。
普段は言葉遣いにも十分気をつけているし家でもそうとう教え込まれて来た。その反動だろうか昔から愚痴、悪態だけはひどいくらいにひとり育ちしていた。
この部屋についてからもう結構な時間がたった気がした。きっと思っているよりもっと時間はたっているのかも知れない。先ほどまでずいぶん明るかった下の話し声がもうだいぶ落ち着いて来ていたし車を呼ぶなど帰りの挨拶だの家のものが少しばたばたしているのが何となく聞こえる。
この部屋にきちんと動いてる時計はないがこの雨でもわざわざ車を呼んで帰っていくのだ、だいぶ遅い時間なのだろう。私はこの部屋にきてずっとこの窓辺で外を見ていたのか。私は気付いたらここに座っている事は良くある。行儀が悪いと何度か起こられたがそうしてもこの癖だけは抜けない。本を読んでいても、考え事をしていても、疲れていても、なんでも気付いたらここに座って息をつくたびに外を見る。そしていつもこの一息ついた瞬間にここに無意識に座っていた事に気付くのだ。
そして今日もそうだ。その部屋に入って来てとりあえず本の多さに圧倒され懐かしむ気持ちと、本の紙の臭いの中で感慨深い気持ちになっていたはずなのに。まぁこれもこの部屋に帰ってきたんだなぁという実感というものか、なんて言う事を思ってまた外を見る。
雨はまだ容赦なく降り続いていた。