向田邦子賞は、オリジナルストーリーの優れた脚本のドラマに与えられる賞。
橋部敦子さん
『モコミ~彼女ちょっと変だけど~』をこの度、一気に視聴する。
とても素晴らしいドラマだった。
心がぽっと温かくなるドラマで、素晴らしい名作ドラマを量産されてきた橋部敦子さん、向田邦子賞をまだとられていなかったのか、という驚きもあり。
あらすじは、
物や自然と心を通わせるモコミと家族の再生ドラマ、なのだろうが、私は
「普通とは変わった娘を閉じ込めていた母から娘が開放される話」なのだと思った。
母(富田靖子)は、普通が好きで、そこから外れた者を許すことができない。
モコミは確かに人以外の気持ちがわかるのだが、それを完全に否定する。
自分の父親が教え子と不倫したら許せない。
夫が会社を畳み自宅で仕事することはありえない。
というふうに、家族を普通におしこめたい母にモコミがNOを突きつけることにより、父も兄も本当の自分を出すことができた、というのがこの話の根底にあるように思う。
母の口癖は
「失敗したらどうするの?」
「うまくいきっこない」
「普通じゃない」
なのだ。
最後、モコミが家を出る時に、
「いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう」
と母と和解して家を出るのだが、この優れたドラマにもう一つ欲しいと思うのは、なぜ母がそこまで普通にこだわり、家族を締め付けてきたのか、その背景は一切表現されていなかった点にある。それだけが残念だ。
しかしモコミが言ったように「美味しいいご飯」というのは、大変ありがたくも同時に恐ろしいものだ。
食事で家族をコントロールすることはできる、と私は考える。
専業主婦の母は、朝・昼(お弁当)・夜と家族に充実した手作りの味を提供することで、自分の地位を確保すると共に、自分の主張を押し付けることができる。
だから、物語の前半、モコミがデリバリーランチを食べたり、祖父と外食したりすることは、母から離脱を意味している。
夫が自宅で働くようになったらお弁当つくりを拒否した妻に、夫は不満をぶつけるが、もし弁当が提供され続けていたら、夫の夢である田舎暮らしは恐らく成立していない。
食とはそのようにありがたくも恐ろしいものなのだ。
妻は大変だけれど、それで家族の健康も気持ちもコントールできるのだと思う。
一方、主夫が作るそれは少し趣が異なるように思う。
それは古来から「火」が女についてまわり、女がそれを司ってきた、ということに通じる。
女が扱う「火」には魂が移りやすいのだと思う。
そう考えるとこの物語は、
ものと心の交流ができる娘と、火を使い家族を牛耳る母の戦いなのでもあった。
さて、優しくだめな父を『モコミ』では田辺誠一が好演。
それで思い出し『11人もいる!』を再視聴。
宮藤官九郎が脚本で、長男が神木隆之介、長女が有村架純、変なおじさんが星野源で、死んだ母が広末涼子。
冴えないカメラマンの父が田辺誠一。
いや~面白い。
ふざけきっているのに、ほろっとする脚本なんて、クドカンにしかやはり書けない。
『モコミ』が素晴らしい話しだったので、『11人もいる!』もまた楽しく拝聴しよう。
来週の楽しみが増えた。
ダメおやじっぷりを演じる田辺誠一の偉大さにも感謝しよう。