そもそも「系統的脱感作」とは?
系統的: 順序立てて
感作: 特定の刺激に過敏になっている状態を
脱感作: 刺激に過剰に反応しない状態にする
簡単に言うと、小さい刺激から始め、徐々に刺激を大きくしていき、恐怖対象の刺激に慣れさせる手法のことを言います。
例: 「高いところが怖い」
まずは30cmほどの高さから始める。
徐々に50cm、70cm、1m、1m 10cm…と高さを上げる。
こうすることで、やがて数メートルの高いところでも過度な恐怖心を感じなくなる。
犬の分離不安の場合、まずは1秒ほどのごく短時間を犬に留守番させることからスタートします。
そして徐々に、5秒、10秒、15秒…1分、2分、3分….と留守番時間を長くしていきます。
そうすれば、いずれ数時間の留守番が可能になる、と言う理屈です。
徐々にハードルの高さを上げていけば、屋根だって飛び越せるんだぜ、的な忍者の修行みたいな話ですね。
分離不安を脱感作で治せるのか?
系統的脱感作は、実際のところ分離不安に対して効果があるのでしょうか?
具体的な効果を調べた論文は多くありませんが、ありがたいことに存在します。
🔹 2011年のニュージーランドの研究
2011年のニュージーランドの研究です。
この研究では
「飼い主が不在のときに、犬がモノを壊したり、吠えたり、家を汚したりする問題を、系統的脱感作で治せるのか?」
ということを調べています。
🔹 調査方法: 8匹の分離不安の犬を調べる
実験には、8匹の犬が参加しました。
これらの犬はすべて、飼い主が不在の時にだけ
「破壊・吠える・粗相をする」
などの問題行動を起こしていました。
実験中、治療のために飼い主たちは以下のことを指示されました。
1. 系統的脱感作:
・1日に3~4回、犬を隔離する
・次のセッションを行う際は、1時間以上の休憩を設ける
・最初は5分から始める
・分離不安の問題行動が発生しなければ、5分単位で時間を増やしていく
・問題行動を起こしたら、問題行動を示さなかった最長時間に戻り、よりゆっくりとしたペースで進める
・30~90分間、問題なく離れられるようになるまで続ける
2. 拮抗条件付け:
・問題行動が起こりやすい状況(出発前の準備中)に対して、好ましい感情をおやつなどで結びつけて、問題行動をなくす方法
・出発前の準備中、そして戻った時に、問題行動がなければ食べ物を与える
・問題行動があった場合は、戻ってから30分間は犬を無視する
3. 罰の中止:
・分離関連の問題行動に対して、言葉や体罰による罰を与えるのをやめる
4. 運動と「待て」の訓練:
・毎日最低15分間、犬を運動させる
・また「待て」コマンドを訓練し、家の中での落ち着いた行動を強化する
5. トレーニング以外での留守番を最小限にする
可能な限り、治療セクション以外での長時間の分離を避けるよう助言
🔹 実験結果: 問題行動がほぼ完全に消失
実験の結果、ほとんどの犬で問題行動が減少しました。
また実験が終了してから半年後には、8匹中6匹の犬の問題行動が、驚くことにほぼ完全に消失したそうです。
残りの2匹も、単に追跡調査をしなかったから評価できなかっただけで、飼い主は治療結果に満足しているとのこと。
「ホンマかいな」
と胡散臭さを感じるくらいに、すんばらしい成果ですね。
【治療前】
・参加した犬は全部で8匹
・6匹が破壊のみ、1匹が吠えのみ、残り1匹が両方の問題を抱えていた
【治療の結果】
破壊的行動: 7匹の犬の破壊的行動の重症度は17~75%減少
発声行動: 2匹の犬の発声行動(吠えるなど)の重症度は59~63%減少
問題行動の頻度: 40~100%減少
- 犬1: 破壊の頻度が50%減少
- 犬2: 破壊の頻度が100%減少
- 犬3: 発声(吠え)の頻度が60%減少
- 犬4: 破壊の頻度が40%減少
- 犬5: 破壊の頻度が100%減少、発声(吠え)の頻度が100%減少
- 犬6: 破壊の頻度が83%減少
- 犬7: 破壊の頻度が86%減少
- 犬8: 破壊の頻度が67%減少
実験終了から1~6ヶ月後: 6匹の犬で問題行動がほぼ完全に消失
・追跡調査が行われた6匹の犬で、問題行動がほぼ完全に消失
・残りの2匹は追跡調査が行われなかったため、測定できず
・しかし、非公式ながら2匹の飼い主は「治療の結果に満足している」と報告
🔹研究者の見解: 30-90分の留守番が解決の目安
留守番の長さと問題行動の酷さは、比例しない犬が多い
8匹中6匹の犬は、留守番の長さと行動の酷さに関係がありませんでした。
「留守番が長くなればほるほど、行動が酷くなる」
と言うことが確認されたのは1匹だけした。
これはほとんどの犬は、飼い主が出かけてすぐの時間に問題行動を起こさなければ、その後、留守番時間が長くなっても問題行動を起こす可能性は低いということです。
・7匹の犬のうち、たった1匹だけが、留守番時間が長くなるほど問題行動が酷くなる傾向を示した(8匹目はデータ不足のため除外)
・残りの6匹の犬は、留守番時間が長くなっても、問題行動の酷さとは関係がなかった
30-90分の留守番ができれば、分離不安は解決される?
研究者曰く、上記の結果は過去の研究「Borchelt and Voith (1982)」とも一致しており、脱感作によって犬が30分〜90分、問題行動を起こさずに留守番できるようになれば、分離不安の問題はほぼ解決する可能性がある、と分析しています。
『この結果は、Borchelt and Voith (1982) の発見と一致しており、飼い主が問題行動の再発なしに30-90分の不在に到達すれば、分離関連の問題は通常完全に解決されることを示唆しています』
🔹 解説
上記のように全ての犬に対して、脱感作は分離不安の改善に効果がありました。
8匹中7匹の犬は、留守番できる時間が実験後の追跡調査で、平均11分〜6時間ほど増加していました。
面白いのは、拮抗条件付け(おやつをあげる)やその他の行動アドバイス(叱らない、「待て」の訓練をする、運動させるなど)が、治療の成功に関連しているようには見えなかったと言うところ。
これは、系統的脱感作が治療の重要な要素だった可能性が高いことを示唆しています。
また「飼い主が脱感作をどれだけ一貫して適用したか」は、進行速度や最終的な成功に関連性は見られませんでした。
これは飼い主がこの方法を不規則に適用しても、犬の分離不安の治療には効果がある可能性が示されたと言うこと。
つまり
「可能な限り、治療以外での長時間の分離を避ける」
と言うアドバイスの実行が仕事などで難しい人でも、脱感作をやる価値があることを示唆しています。
・8匹中7匹の犬の留守番できる時間は、平均11~370分増加
(残り1匹はデータ不足のため除外)
・拮抗条件付け(おやつをあげる)やその他の行動アドバイス(叱らない、「待て」の訓練をする、運動させるなど)が、治療の成功に関連していなかった
・「飼い主が脱感作をどれだけ一貫して適用したか」は、進行速度や最終的な成功に直接関連していなかった可能性が高い
その他の根拠
その他にも英語の本ですが、以下の分離不安の専門書が参考になります。
この本は、分離不安専門のドッグトレーナーの方によって書かれています。
自身が行ってきた犬たちとの治療を例に、脱感作トレーニングが分離不安に効果的であることが繰り返し主張されています。
実例として、10匹ほどの犬が紹介されていました。
いずれも分離不安の症状が酷い犬でしたが、脱感作トレーニングによって大きく改善され、ほとんどの犬で数時間の留守番が可能になったとのこと。
結論: 脱感作は最強の治療法である
上記のように、脱感作は分離不安に大きな効果があることが分かりました。
ネットには様々な分離不安への対処法が書かれていますが、恐らく最も科学的根拠があり信頼できる治療法が「系統的脱感作」です。
他にも「クレートトレーニング」がよく治療法としてあげられています。
しかし、ネットで推奨される頻度とは裏腹に、分離不安に対してクレートの有効性を示した論文はほぼありません。
つまるところ「クレートが効果的」と言う話に、はっきりとした根拠は特にありません。
(むしろ、悪影響の結果を示した論文もいくつかある)
もしかしたら、他にもっと効果のある方法や、クレートが有効な犬も中にはいるかもしれません。
しかし現状最も確実かつ安全で、科学的信頼性が高い手法は、やはり系統的脱感作と言えるでしょう。
と言うこって、これからも気長に脱感作トレーニングを頑張って行こうと思った次第です。
同じく分離不安の犬を飼っている人は、一度試してみることをオススメします。