『Debüt』シリーズ、並びに『薔薇の奏で』シリーズを愛読して下さる皆様こんにちは飛び出すハート

実はもう一つ『Debüt&薔薇の奏で』というシリーズが存在します。言うなれば二つのシリーズの番外編(第一話のタイトルからふざけていますね)。

 

例えば『ハリーポッターと賢者の石』でハーマイオニーが言うところの「軽い読み物」にも到底及ぶはずもない「かっるい読み物本

それぞれのカップルも無事に結婚し一段落したということで、暫くの間、お付き合い頂けたら幸いですラブラブ

 

※クラウス20歳、ユリウス18歳、アンドレ20歳、オスカル19歳の頃の話音符

 

 

 

 

ユリウス⇄クラウス

 

 

「ねえクラウス、こっち来て。ボクの膝に頭のせて」
風呂からあがったクラウスに、炬燵の横で待ち構えていたユリウスが手招きをする。

「何だ? なにかイイことしてくれるのか?」
嬉しそうに微笑みながら、クラウスはユリウスに近付いた。

「ばか。あのね、耳そうじしてあげる」

「耳そうじ? お前が? 大丈夫かよ」
一転、クラウスが不安げな声になる。
「あっ、なに、その言い方。いいから大人しくしてて。動いちゃダメだよ」
「ほいほい、分かったよ」
──怖くて動けるかよ。

 

見た目は儚げだが、片付けが苦手とか、着替え方がダイナミックとか(その癖、ボタンに手を掛けられただけでめちゃめちゃ抵抗する)ちょっぴり大雑把なところがあるユリウス。
クラウスは、ひやひやしながらユリウスの膝に頭をのせた。
すると。
──あれ……?
膝の上で、初めは強張っていた躰の力が、風船が萎むように抜けていく。
ユリウスも、それを感じ取ったようだった。
「ふふ……、気持ちいい?」
「お前、意外だな」
まず、当たり前だが痛くない。そして、素人目に見ても上手い。
ピアノを弾く者は、手先も器用なのだろうか?

 

「子供の頃、母さんに、よくやってもらったんだ。凄ぉく気持ちが良かった」
「へえ、そうなのか?」
視線の先に、ルームワンピの裾から覗くほっそりした足首が見えた。
「うん。大きくなってから、時々お返しで母さんにもしてあげたの。上手だって誉めてくれた。才能あるって」
これまで何度も口づけた。足首だけじゃなくつま先にも甲にも。
「母さんのお墨付きか。なら安心だな」
触らなくても分かるその滑らかな肌に、今は触れることは叶わない。(そんなことをしようものなら、彼の鼓膜は一巻の終わりだからだ)

 

「でしょ? 母さんはね、今、ヴィルクリヒ先生にやってあげてるんだよ」
「な、に?」
思わず上を向きかけた顔を、ユリウスが「だめ」と、そっと押さえる。
「ボクは、もうとっくに卒業。先生に譲ってあげたの。前に、階段の上からたまたま見ちゃったことあるんだ。リビングのソファでね……先生も、とっても気持ち良さそうだったし、母さんも嬉しそうだったな」
「ヴィルクリヒのやろう、学校じゃ澄ました顔して、そんないい思いしてやがったのか。許せんな(しかも俺が悶々としている時期に)」
「クラウスったら、何言ってるの? はい、反対側向いて」

 

クラウスの顔が、今度はユリウスの躰側に向けられた。
目の前には抱き慣れた華奢な腰、目線を上げれば愛してやまない二つの丘、そのまま顔を沈めてしまいたくなる。
そもそも、風呂上がりの匂いをぷんぷんさせた柔らかな躰に密着させておいて(ユリは先に入っていたのです)、変な気を起こすな、というのが無理と言うものだ。
しかし今は、それよりも、自分の耳を付かず離れず、擽り続ける何とも言えない至福の時間に酔っていたい……という気持ちの方が僅かに勝っていた。

 

「痛いとこなかった?」
「ああ、サイコー……」
半分、夢見心地でクラウスは答える。
「良かった。母さん以外で耳そうじするのクラウスが初めてだから、ちょっと心配だったの」
「俺が、初めて?」
「うん」
「そっか。母さんの他は俺だけか」
「そうだよ。なんかおかしい?」
「お前、もう俺以外のやつの耳そうじするの禁止な」
「え? 他に誰もする人なんかいないよ」
「頼まれてもだぞ?」
「どういうこと? 誰がボクに耳そうじを頼むの?」
「ダーヴィトとイザークだよ(あいつらなら、やりかねん)」

 

ユリウスが、ぷっと吹き出す。
「分かった。安心して、あなた以外しないから。はい、おしまい」
「あれ、もう終わりか?」
「そ、余りやり過ぎても良くないんだよ。ほら、起きて……きゃ!」
クラウスはユリウスの腰に腕を回し、そのまま覆い被さった。耳掻きが手から落ち、床に転がる。(危ないぞ~)

 

「クラウス?」
「今度は、俺の番」
「何?……っん」
突然のキス。一回、二回……、三回。
唇が火照りとともに赤く染まる。
「クラウス……」
「耳そうじのお返しだ」
「なんか……クラウスのほうが得してない?」
「何だよ? 苦情も返品も受け付けないぞ」
ーchu!
突然ユリウスからのキス。クラウスの肩を掴んで。
「ユリ……?」
「返品」
ユリウスが悪戯っ子のように微笑んだ。
「こんにゃろ」
「ふふ……」

 

クラウスは思った。
絶対に、ヴィルクリヒも自分と同じような状況に流されていったに違いない。
流石にリビングではマズいだろう。自分たちの寝室へ、足を忍ばせ、こそこそ向かう二人の姿が頭に浮かんだ。
「おい、お前が母さんたちの耳そうじを覗いた後、暫くしたら二人の姿がリビングから消えてなかったか?」
「え? そんなの知らない。ずっと見てたわけじゃないもん」
──ま、そりゃそうか…。
「もぉ、なんなの? 上の空……」
ユリウスが唇を尖らせた。細い腕が背中に回る。
「悪かった」

 

 

 

 

アンドレ⇉オスカル

 

 

「オスカル、ちよっとおいで」
バスローブ姿のオスカルを、ソファに座ったアンドレが手招きした。
「何だ? 風呂上がりのビールを飲もうと思ったのに」(19歳です)
冷蔵庫に突っ込んだ顔を渋々上げて、オスカルは口を尖らせる。
「いいから。俺の膝の上に頭のせて」
「何なに? 新手のマッサージか?」
どうやら、オスカルは、しょっちゅうアンドレにマッサージをしてもらっているようだ。
「違う。み、み、そ、う、じ」
「耳そうじ? 失礼だな! ちゃんと毎日、手入れしているぞ」
「まあまあ、自分でやるより人にやってもらう方が数倍気持ちいいんだぞ。ほら」
早く来いと言うように、ぽんぽんと膝を叩く。
「そこまで言うからには、わたしを満足させる相当の自信があるんだろうな?」
オスカルは、仕方なくアンドレの膝に頭をのせた。

 

「いいから、動くなよ?」
「分かっている」
その数秒後。
「アンドレ……」
「うん? どうした?」
「お前、そんな技、いったい何処で身に付けた?」
「お気に召しましたか? お嬢さま」
「なんか……眠くなってきた……」
リビングには、オイルヒーターが置いてあるため(超絶寒がりのオスカルのために、アンドレが買ったのだ)、部屋全体がまんべんなくぽかぽかと暖かい。
暖かい部屋に温まった躰、最愛の恋人からの匠の技の三拍子が揃ったら、睡魔が襲ってくるのも仕方のないことだろう。

 

「おい寝るなよ。お前、バスローブなんだからな。風邪引くぞ。ほら、反対向いて」
「うん……」
ごそごそごそ……。
「こらこら、裾がはだけてるって! まったく、少しは恥じらいってものをだな」
「う……ん」
返事だけで、行動が伴わない。
「オスカル? おーい」
耳の手入れが最後まで終わらないうちに、オスカルは、すうすうと眠ってしまった。
アンドレは、仕方なく彼女を抱き上げ、ベッドに運ぶ。シーツの上にそっと下ろすと、バスローブの合わせが開き、白い胸元がちらりと見えた。

 

数年前の出来事を、アンドレは思い出す。
想いは、まだ一方通行だった。(実は、彼女が恋を恋だと思っていなかっただけなのだが)
嵐の夜、子供のときと同じように、自分のベッドに潜り込んできた無防備過ぎる彼女の姿。
今、思えば、よく我慢できたものだ。
まだ真面目だったのだろうか? だからと言って、今が不真面目というわけでは無いけれど……。

 

「相変わらずだなあ、お前は」
金糸の頭を撫でながら、アンドレは呟く。そして、少し不安になる。
「俺だけだよな? お前がこんな姿を見せるのは……」
それに答えるかのように、オスカルの長い睫毛が上下に震える。紅色の唇が僅かに開く。
その顔を眺めている今の自分と、17の自分が重なった。

 

あの時は理性が勝った。
やっぱり真面目だったのか?
心の中で首を振る。
本当は、触れたかった。何度も手を伸ばしては引っ込めた。
ほんの1ミリ……いや、0.1ミリの欲望と自制の差。
でも今は。

 

「ア、ンドレ……」
「オスカル、起きたのか?」
「ん……寝てしまったのか……」
オスカルが伸びをした。バスローブの合わせが、またずれる。
朝の光に露わにされた瑞々しい姿態が脳裡を掠める。

あの時は、なんとか耐えた。
でも今は?
細い手首を両手で摑む。
強過ぎないように、けれど逃さないように。
「アンドレ? 何を……」
「オスカル、今夜は」
「え?」
「今夜は、無理だ」

 

 

 

 

後日談1/おこぼれ

 

 

パリのカフェで、お茶するユリウスとイザークとダーヴィト。

 

「ユリウス、君の耳そうじ、神業級だって言うじゃないか」
コーヒー(エスプレッソ)を片手にダーヴィトが言う。
「あ、僕も聞きました」
イザークは、アメリカン。
「えっ!?(いったい誰に?)」
カフェオレを両手で持ちながら、ユリウスは目を丸くする。

 

「是非、僕にもやって欲しいなあ」
押しに弱いユリウスなら承知してくれるに違いない、とダーヴィト。
「それなら、僕も!」
イザーク、同上。
テーブルの中心まで身を乗り出す二人に、ユリウスは椅子からずり落ちそうになるほど躰を引いた。

 

「あ、あの……ごめんね、それは無理。二人のことは、とても好きだよ。好きだけど……これは、えっと、クラウスだけなの。上手く言えないけど……、だから駄目なの。ごめん……」
碧の瞳が戸惑いがちに、くるくる回る。だけど、その奥には揺るがない光が見えた。
「分かった、ユリウス。冗談だよ。な? イザーク」
「え? は、はい……(本気マジだったのに)」

 

同じ頃、同じカフェの柱の影で、クラウスは感激で咽び泣いた。

 

 

 

 

後日談2/張り合う

 

 

コンセルヴァトワール、ヴァイオリン科授業前──。

 

クラウスの隣の席に、オスカルが腰掛けた。
「どうした? クラウス。えらくすっきりしたような顔をしているじゃないか」
「おっ、聞いてくれるか? 昨日、ユリウスが耳そうじしてくれたんだけどな、これがもう上手いのなんのって! まるでプロのマッサージのような指使い(どんな?)でさ。その後、俺は思わず押したお……ゲホゲホゲホ!」
「おした、お……?」
「い、いや、何でもない」
思わず、目を逸らすクラウス。

 

「それより奇遇だな。耳そうじなら、わたしも夕べ、アンドレにやってもらったぞ」
「やって“もらった”だぁ?」
「うん。ユリウスがどれ程の腕かは知らないが、アンドレだって負けてないぞ。途中で眠ってしまったんだからな。寝付きの悪い、この私がだぞ?」
「(お前の寝付きが良いか悪いかなんて知らねーよ)まったくお前は、相変わらず、いい身分だな」
「は? 何が悪い。わたしが頼んだわけじゃないんだ。アンドレは、マッサージもやってくれるんだぞ。これもまたサイコーで……」
得意げに自慢するオスカルに、
「お前さぁ、やってもらうばかりじゃなくて、たまには、お返ししようとか思わないのかよ?」
クラウスは半ば呆れ顔でそう言った。
「お返し?」
「そうだよ。代わりに、やつの肩を揉んであげるとか、お礼のchuでもいいんだぞ」
「お礼の、chu……?」

 

《オスカルの回想》
『アンドレ、何を……』
『オスカル……今夜は、無理だ』
両腕を拘束され、身動きがとれない。
ふと見ると、バスローブの合わせがはだけ、胸元が今にも覗きそうだ。
オスカルは、恥ずかしさで上気した。
『ア、アンドレ……手をはな……』
言い終わる前に、唇が降りてきた。
吸い付いて、熱く覆われ、隙間を割ってその奥に……。
躰中が沸騰してくる。
気がつくと、彼の手が合わせの中に滑り込み、長い指が──

 

「わあぁッ!!」
オスカルは、手にした楽譜を放り投げた。
「ど、どうしたっ!?」
「なななな何でもないっ!!」
「大丈夫か、お前? 顔が真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃ……」
オスカルは耳まで赤くなっていた。
「何ともない! こ、この部屋が暑いんだ。暖房効きすぎじゃないか? あぁ暑い」
拾った楽譜でパタパタと顔を扇ぐオスカルを、クラウスは怪訝な表情で見据えている。
「そんなに暑いかなぁ?」

 

どちらが仕掛けたとか、受け身とか、そんなことは置いといて、結果的には同じことをゴニョゴニョゴニョ……した二人であった。
たかが耳そうじ、されど耳そうじ。
今宵、あなたも、愛する人の膝枕で、魅惑のひとときに埋もれてみませんか?(なんちて)

 

 

 

 

 

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