「ほら、早く来いよぉ」

「イヤッ!」

 

 

もうすっかり忘れられていたあの仔に、パートナーができました(ФωФ)

 

※まだ名前が無かった頃左下矢印

 

 

 

許せない。
もう、許さないんだから……。
「ま、待てって! オレが悪かったよ」
今更、謝ったって駄目。
後退りする彼へ、じりじりと距離を縮める。

 

ときどき、ううん、かなり頻繁に、同じ行為を彼がしてくる。
きっかけは、ほんの些細なこと。
どの地雷を踏んだのか、検討もつかないうちに。
泣いても謝っても、許してくれない。

 

『お願い……、ごめんなさい……』
『駄目だ。もう遅い』

 

今日は、その仕返し。
ほら、後ろはもう壁。それ以上、動けない。
知っているでしょう?
だって、そこは、いつもアナタに追い詰められる場所だから。

 

じっと見据える。
本当は大好きな、透明な茶色い瞳を。

わざと何処も拘束しない。でも、彼が動かないことは知っている。
本当は、少しだけ、期待しているということも。

彼は背中を壁につけたまま、僅かに膝を曲げている。だから、少し背伸びをすれば容易く届く。
その首筋に、吸血鬼ヴァンパイアのキスをする。彼の腕がぴくりと動いた。

 

「ユ……リ……」
「駄目。動かないで」
もう一度、同じところを甘嚙みする。
「う……っ」

 

宙に浮いたまま震える手。
その手が抗えないことも知っている。
そのまま唇をすべらせる。硬直する彼のカラダへ。
それから、そっと舌を出し、毛並みを整えるように掬い上げ……

 


 

 

「あーっ、また落ちてるよ。二匹とも」
声の方へ、クラウスは視線を向けた。
「はぁ? またかよ」
「場所が不安定なのかなあ」
ユリウスは、ソファの背凭れを見た。そこが彼らの定位置だからだ。

 

「おっ、珍しいな。今日はユーリが上になってるぜ」
「え? 本当だ。いつもクラノスケが上なのにね。でも、どうして毎回、重なって落ちるんだろ? 不っ思議ー」
ユリウスが小首を傾げる。
「襲ってんじゃねえか?」
クラウスは彼女に近づいて肩を抱き、碧の瞳を見つめて言った。
「襲ってるって?」

 

「クラノスケがユーリをだよ」
「は? 何言っているの? ぬいぐるみだよ」
「だけど、今日は逆だな。ユーリがクラノスケを襲ってらぁ」
「あのねえ、クラウス」
「逆襲のユーリ、だな」
しゃあぁっ、とクラウスは、恋人を威嚇する真似をする。
「もうっ、ふざけないで!」

 

ユリウスは子供みたいな恋人を片手であしらう。シフォンの五分袖がひらひら揺れた。
彼女は二匹の猫を拾い上げる。金色と亜麻色のぬいぐるみ。
その手から、金色だけが奪われた。

 

「あっ、何するの?」
「おい、お前。いつもクラノスケに襲われているのかぁ? 可哀想になあ」
『そうなのぉ。酷いのよ、あいつ。だから、今日は仕返ししてやったわ!』
「そうかそうか。さすが俺のユーリだな。偉いぞ~」
彼はぬいぐるみを優しく撫でさする。まるで恋人の躰を……、

 

ばっっ!!!
(やっぱり)奪われた。

 

「わざとらしい一人芝居はやめて」
俺のユーリ、にカチンときた。
「おい、返せよ」
「いやらしい」
「どこがだよ?」
「その触り方がだよ」
「まったく、お前は。少しは大人になったかと思えば……」

 

溜息をついた後、クラウスは、ユリウスを壁際に追い詰める。その目つきは、もう既に、獲物を捉える狩人だった。
あぁ罠に落ちてしまった……と後悔しても後の祭り。
「やだ……、どいてよ……」
ユリウスは、今にも泣きそうな顔で懇願する。ぬいぐるみを盾にして。
その行動は逆効果だ、と何度学習すれば解るのか。

 

クラウスは役立たずの盾を取り上げ、か細い手首を優しく摑んだ。その手を壁に拘束すると、薄手の生地がするりと滑り、艶やかな肘がさらけ出される。
「ぬいぐるみにまで嫉妬して。いつまでも可愛いやつだな、お前は」
「嫉妬なんかしてな……やっ」
彼が矛を突き立てたのは、あろうことか彼女の白い肘だった。
「なんで……そんなとこ……ぁ……」

 

唇と舌が、交互に器用に責めていく。
まるで新雪に降り固められたばかりのような、形良く尖る頂を。
滑らかな表とざらつく裏、強弱と緩急を使い分け。
「や、め……」
やがて、甘やかな吐息が浮遊する。
腕のなかで藻掻く躰は、次第に、徐々に、少しずつ……、
武骨だけれど繊細な愛撫にほどけ、綻び、崩れ落ち……。

 

ほら、さっきとは全然違う女の表情かおだ、と彼が囁く。
だけどもう、彼女の返事は声にならない……。

 

 

その様子を床の上で、二匹のぬいぐるみが、じとーっ、と睨みつけていた。
ユーリ「よくもあたしを(また)放りにゃげたわねー」
クラノスケ「おいおい、またかよ。まったく、(猫の)教育上よろしくない家だぜ。昔は品行方正だったオレが、すっかり堕落しちまった。なあにゃあ?」
ユーリ「ウルサイわね! 初めて会ったときから、あんたは不届き者だったわよっ!」
クラノスケ「にゃんだとぉ?」

 

 

 

 

新参者

 

オレは猫(のぬいぐるみ)。名は、クラノスケ。
名前の由来は単純明快。メイド・イン・ジャパンだからだ。
ことの始まりは数日前に遡る。
「こちらは日本製なので、品質保証はバッチリですよ。ほら、縫製も細部まで丁寧でしょう?」
髭面の店主が、オレのカラダをひっくり返して、懇切丁寧に説明する(このとき初めて知ったが、日本人だったようだ)。
客がオレの足に付いているタグを見た。

 

「これは、ブランド名ですか?」
「ええ。日本の漢字で、『倉之輔』と読みます」
「クラノスケ?」
「わぁ、凄い偶然! あなたの名前が入ってる。そのまま、この仔の名前にしようよ」
「え、クラノ…スケかぁ? 言いにくくないか?」
「すぐに慣れるよ。ほら、この色見てよ。あなたの髪と一緒。これは運命だね」
「大袈裟だなあ」
「これでユーリも寂しくないよ。カップル誕生だね」

 

ほう。どうやら先住がいるらしい。しかも雌猫オンナか。楽しみだぜ。
「よろしくね♡ ク・ラ・ノ・ス・ケ」
おいおい、やめろよ。擽ったいぜ。
参ったなあ、顔が濡れちまうじゃねえか。
それにしても、こんな甘い匂いがする人間ヒトもいるんだなあ。
あぁあ、やわらけ……。
っとと……、何だよぉ? 睨むなよ。
でっけぇ男だな。おお、こえぇ。

 

さて、いよいよこの髭面店主ともお別れか。まあ、そろそろセーヌの景色も見飽きてきたところだし(あ~あ、富士山が恋しいぜ)、ちょうどいいタイミングだったな。
お買い上げ、ありがとよ。

 

 

 

 

ご対面

 

先住は、金髪のフランスオンナだった。
生意気そうなつぶらな目が、じろり、とこちらを一瞥する。
気が強い、を絵に描いたような顔である。

 

「初めまして、マドモアゼル」
郷に入れば郷に従え。何事も初めが肝心。
先住は、つんとした表情で小振りな顎を少し上げた。
「あなた、出身は?」
「JAPONだ」
「ふぅん、随分遠くから来たのね」
「まだこっちの空気に慣れなくてさ(ウソ)。ここの飼い主を見習って、オレたちも仲良くしようぜ」
瞬間、金色の毛が逆立った。
「あまり馴れ馴れしくしないでくれる? あたしはそんな軽いオンナじゃないんだから」

 

ちぇっ、何だよ。思った通りコーマンチキな娘だぜ。だから、フランスオンナは苦手なんだ。
顔はけっこう好みなんだけどなぁ。
まあ、慌てず騒がずのんびりと……だな。

 

──驕れる猫は久しからず。二猫ふたりが飼い主のようにベタベタ甘々な関係になるのは、まだまだ遠い道のりかもしれないが、明日かもしれない。

 

 

 

 

 

思い起こせば、図書館で愛蔵版『オルフェウスの窓』を手に取ったのが運のツキお月様

懐かしい記憶と共に、悲劇の沼に足を取られ、気づけば生活に支障が出るほどの落ち込みようガーン

そんななか二次創作というものを知り、pixivを知り、読むだけでは飽き足らず、無謀にも自分で小説を書き始めたのが2018年4月辺り。

周囲を見渡せば、10年、20年超の先輩方。その筆力、語彙力、そして計り知れない世界観に圧倒されつつ、無節操で独り善がりの物語をちまちまと綴って約6年。まだ6年。漸く6年。

 

初めて社会に出た20歳の頃のように、二次の世界やSNSの洗礼を受け、七転八倒、七転び八起き、随分鍛えられたなぁと最近は思うようになりました。

今はこうしてアメブロpixivを行ったり来たり、それぞれの空気をゆるゆると楽しんでおりますおすましペガサス

これからも、心にぽうっと灯った瞬間を言葉にし、文章に起こし、物語を紡いでいけたらいいなと思っています。

ロウソクの芯はあとどれくらい残っているだろう。

誰か新しいの買ってきて~ッ爆  笑

 

 

もうこれ以上ユリには転んでほしくない。

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