星ちょっと勘違いしておりまして、アメンバー記事から浮上させました(下段に加筆あり)。

 

 

『おまけ③ ユリとつむじ~質問編~』の続きですハート

 

時期的には、クラウスが渡仏して3~4か月後(つまりまだ結ばれたてほやほやの二人)。

行き着くところまで・・・は無理でした。この二人では書けなかった。
「優しい悪魔」ならぬ「優しい野獣」?

 

 

 

 

押し問答の途中で、クラウスがプリンを買ってくれた。
なんだか上手くはぐらかされたような気もするが、ユリウスは素直に喜んだ。プリンの入った箱を持って、うきうきとスキップする。
その辺が成長し切れていない証拠なのだ。クラウスは内心ほっとする。

 

つい調子に乗って、あんな戯言たわごとを言ってしまったことを彼は反省していた。
彼女を初めて抱いたのは、ほんの数か月前だった。それから間もなく遠距離恋愛が始まって、このクリスマス休暇に久し振りに逢ったのだ。つまり、肌を合わせた回数は、まだ数えるほどなのである。

 

自分の腕のなかで小鳥のように震える躰。いつもと違う稜線を指がなぞり始めるだけで、跳ね上がって怯える瞳。

そんな相手に仕掛ける悪戯にしては度が過ぎている。
こういう場合、他の男だったらどうするのだろうか? 遅かれ早かれ知ることなのだと、無垢なヴェールを剥がすように、躊躇なく、ことを進めていくのだろうか。

 

『お前、意外と慎重派なんだねえ』
どういうわけか、ダーヴィトの半分呆れたような、半分感心したような声が聴こえた。
『僕だったら、怖がらせないように優しく手解きするけどね』

 

──うるせーよ! ユリウスはそんなんじゃねえんだよ。
何がそんなんじゃないのか……、自分でも上手く説明できない。ただ、そんな短絡的な考えだけで行動したくない、というだけだ。

 

いや……、それとも……、
本当は、自分の願望ではないだろうか?
だからつい、あんな台詞が口から出た?
──理性の皮を被った狼のふりをして……?

 

「ね、ね、これは夕食の前に食べる? それとも食後?」
ユリウスが子供のように箱を掲げて訊いてくる。

「前に食ったら、メシが入らなくなるだろ」
「えー、でもお、プリンくらい大丈夫じゃない?」
「何だよ? 結局すぐに食べたいんだろーが」
「そうだけどぉ……。やっぱり楽しみは後の方がいいよねぇ」
「……好きにしろよ」

 

クラウスは溜息をつく。
──まったく……、こんな未だに、花より団子が優先のやつに……。
とにかく、このまま彼女が忘れてくれればいい。いや、もう完全に忘れているだろう。とクラウスは思っていた。この時は。

 

家に帰って、二人で仲良くプリンを食べた(散々悩んだ末、食後にした)。
クラウスがコーヒーを飲んでいる間、ユリウスは風呂に入っていた。
この時点では、彼は押し問答のことなどすっかり忘れていた。けれども極めて不幸なことに(?)、ユリウスはばっちり憶えていた(好奇心旺盛なお年頃)。
その晩、彼女がいつもより念入りに躰を洗ったのは特に深い意味はない。

 

「ねえ、さっきの答え教えてよ。自分では見られない場所って何処なの?」
カップを洗っているクラウスの背中へ、ユリウスがぴとっと引っ付く。今夜のボディシャンプーは、チェリーブロッサム。

 

「は? お前、憶えてたのかよ」
湯上がりの甘い匂いが、たちまち珈琲の香りを消し去った。
「当たり前でしょ。夜になるまでちゃんと待ったよ。だから早くう」
変なところで律儀である。ユリウスがシャツの袖をつんつん引っ張る。

 

「はあぁ、しょうがねえなあ……」
これ以上拒むには、彼女の馨りは魅惑的過ぎた。クラウスは、あっさり白旗を上げる。
「なんでそんなに嫌そうなの? え……」
一度狙いを定めたからには容赦はしない。狼が獲物を抱き上げた。
「え? ちょっと! 何するの?」

 

「決まってんだろ。ベッドに行くんだよ」
「な、なんで?」
「ベッドの上じゃなきゃ教えられないからだよ」

 

クラウスは大股でベッドルームへ歩いていく。
彼の腕の中で、ユリウスは雛鳥のように藻掻いている。

 

「いいか。教えろって言ったのはお前だからな」
ふぁさり、と華奢な躰がシーツに沈む。
まな板の上のユリ。

 

「ま、待って……」
漸く事態を察知したユリウスだったが、もう遅い。
「相変わらず、無防備に、風呂上がりの匂いぷんぷんさせてよ」
「そんなの……んっ……」

 

のっけから熱い口づけ。性急な舌が口腔を蹂躙する。
昔、教わった大人のキスは、いつまでたっても慣れなくて、ついていくのもやっとなのに……。
呼吸困難。
息つく間もなく、唇は首筋へ。
手のひらは膨らみへ。指先はその頂へ。

 

「あ……、や……」

びくん、と肌が震え、
じわり、と体温が上昇する。
彼の手は、まるで魔術師だ。

「ね……、明かり消して……」
やっとの思いで、諦めた声が言った。

 

「何言ってんだ。暗かったら見えないだろ」

 

──どういう、こと?
混乱と困惑と。もう繋がりも意味も分からない。

 

「ユリウス、ここ……力抜いて」

クラウスは片方の内腿に手を添えた。

そのまま固定される躰。

潤んだ合わせ目を指がぜる。

「い……や……」

こんなに明るいのに……。

「でないと、答えが分からないぞ」

 

『自分で見られない場所なら他にもあるだろ?』

 

ユリウスは目を見開く。
このとき初めて彼の言った意味を理解した。そして、不用意に回答を求めたことを心の底から後悔した。

「も、ういい! いいからもうやめて……っ」

声が震える。震えて掠れる。


合わせ目から彼が手を抜いた。ユリウスは脚を固く閉じ、背中を丸めた。

「クラウスのばか。いじわ……」
泣く。
「泣くなよ」
彼が困った声で言う。

「どうせ……、どうせボクが悪いって言うんでしょ。しつこく聞いたボクが悪いって……」
涙目で睨みつける。

 

──そうだ。お前が悪い。お前がそんな無邪気な顔で、俺にすべてを委ねてくるから……。
「いや、俺が悪い。ちょっと悪乗りし過ぎた。あんまり真っ直ぐな目で見つめてくるから、つい苛めてみたくなったんだ」
そう言って、青年は碧の瞳を見つめ返した。

 

「なにそれ……、サイテー……」
また泣く。
「うん……、サイテーだな、俺。ごめん……」
愛おしいと思う。とても。
「だいっ……きらい……」

 

──好きと聴こえた俺は相当昼行燈ひるあんどんだ。

「悪かった」
クラウスは華奢な肩にパジャマをかけて、起き上がらせる。ユリウスが彼に抱きついた。
パジャマが滑り落ち、白い肌が露わになる。
「ほら、まだ途中だぞ」
ほくろ一つ、染み一つない背中。太陽の光さえ、屈折なく透過させる肌。

 

「ごめんで済めば、ケーサツはいらないんだからね」
「はいはい」
「はいは一回!」

心の中ではいはいと返事をして、クラウスは機嫌が直るまで恋人の背中を撫で続けた。

 

 

クローバー クローバー クローバー

 

 

「なあ……、今夜はこのまま寝るのか?」
未だ懲りていない男の声。
「当たり前でしょ! 何期待してるの?」
ユリウスは頬を膨らませながら、パジャマの襟を掻き合わせた。
さくらんぼの残り香と、ご機嫌斜めの天使の匂い。
こうなったら、家中のボディシャンプーを無香料に替えてやろうか……と彼は思う。

 

「クラウス、ボタン留めて」
半睨みの喧嘩腰。
「はいよ」
ユリウスは直ぐに横たわり、首元までケットを引き上げた。
クラウスは、ベッドサイドライトを消した。

 

「ねえ、腕枕して」
──機嫌が悪いのに、くっついてくるのはどういうわけだ?
そんな理解不能な少女の言動に当惑させられながら、それを楽しんでいる自分がいる。
いつの間にか、ベッドに入った時と立場が逆転していた。
そして迂闊なことに、彼はそのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村