ただ意味もなく、ほわんほわんした話を並べた小品集(話にもなってない)。
言わずもがな
「ねぇ……」
可愛い声が近づいて、白い腕に捕まった。
誘い込まれるようにキス。
忍び込んできた舌が、つるん…と絡む。
口腔を満たす甘い吐息。
「お前、えろ……」
「誰が教えてくれたんだっけ?」
「……俺」
小悪魔降臨。
仕掛け損
シャツの背中をつんつんする指。
振り返ると、子犬みたいに甘えた目つき。おねだりをするような。
練習に疲れたか?
ストラドを持った状態で、バードキス。
ちゅっ。
「……それだけ?」
「あとでな」
ぷうう……。
風船がふくらんだ。
🎼🎵🎶🎹🎵\♭ι(`ロ´)ノ🎵🎶~🎹🎵🎶🎹
こらこらこら、鍵盤に当たるなって。
もも
清々しい秋晴れの午後。川岸で寝転ぶには最高の季節。
青空のカンヴァスに、スカートがひらひらと泳いでいる。
「気持ちいいー」
ユリウスが思い切り伸びをする。
魅惑的な白い太腿がちらり。
「いい眺めだ」
間髪を入れず、真上から抗議の瞳。
「えっち!」
無防備すぎるお前が悪い。
──俺の前だけだろうな?(Dとか、Iとか)
ミスリード
「ねえ、ちょっと……」
ベッドルームから、ユリウスが手招きをしている。
俺が贈ったナイトウェアをちゃっかり着ていた。「短すぎる」だの、「魂胆みえみえ」だの、散々文句を言ったくせに。
「何だよ?」
部屋に入った俺の目に飛び込んできたのは、ベッドに横たわり、「早くぅ」と手招きをしている色っぽいお前の姿。
おいおい……、いったいどういう風の吹き回しだ?
「お前……、大胆になったなあ」
少女から大人への変貌を目の前で見せつけられ、俺は感動する。
まあ、まだ多少のぎこちなさは残るけれど……。
もちろん断る理由はない。俺はユリウスを組み敷いて、ナイトウェアの裾へ手を伸ばす。何の障害もなく差し入れられる丈の短さ。なんて便利なんだ。買って良かった。
ところが、
「きゃっ! ち、違うの! ばかっ!」
ぐいぃーっと躰を押し戻された。
「何だよお?」
「さっき、中腰でお掃除してたら腰が痛くなっちゃって。さすって」
「はあぁ!?」
ユリウスは、ぱふんとベッドにうつ伏せになり、
「この辺りね」
と言って、折れそうなくびれを指し示した。
くそう……、
さするだけで済むと思うなよ。
俺は、お前の下僕じゃないんだからな。
多瑙河(ドナウがわ)ラプソディ
※まだ付き合いたての頃の話。
「セミだー!!」
ボクは虫が苦手。
「きゃあっ、クモーっ!!」
でも、虫好きな女の子の方が珍しいと思う。
男の振りをしていた頃は、女みたいだと言われたくなくて、泣きたくなるのを我慢して男の子たちと一緒に触ってたっけ……。人差し指で、つん。手のひらに、ちょこん。思い返すだけでゾッとする。
「うるせえなぁ。水辺に下りたら虫くらいいるだろうが」
大騒ぎして逃げ惑うボクに、クラウスが呆れている。
「だって……、君は平気なの?」
「虫が怖くて釣りが出来るかよ。こーんなうにょうにょしたのをな、餌にするんだぞう」
長い指が虫みたいに蠢いた。
「や、やめてよお」
絶対にわざとだ。いつまでもいじめっ子の悪ガキなんだからッ。
「なかでも、ひっつき虫は大好物だ」
「ひっつき……虫?」
鳶色の瞳が真上からボクを見下ろす。
「あ……」
ぴたりと重なる二つの躰。
無意識に抱きついていたみたい。飛び退く前に、しっかりと背中を固定された。
「は……離してっ」
「ひっついてきたのは、お前だろ?」
顔が接近してくる。
「あのね、ボクは虫じゃな……」
ちう♡
ムシされた。
「顔、赤いぞ」
かあぁ。
「ボクは……まだ、こういうことには慣れてないんだ……から……」
「そうなのか?」
「そうだよ! 知ってるくせに……」
「では、もう一度キスしてもよろしいですか? フロイライン」
優しい顔が覗き込む。
かああぁぁ……。
「ど……どうぞ……」
クラウスが、ぷっと笑う。それから……、
おでこにキス。頬にもキス。片側ずつ。
え、鼻の頭も?
止まらないキスの雨。
くちびるに……、
ん……、ぽかぽかしてあったかい……。
……え?
どしん!!
あっどうしよう。突き飛ばしてしまった。だって……、
「いってぇ……」
だ、だって!
「ひょっとして、初めてか?」
嬉しそうに笑う彼。
あ、当たり前じゃない!
「大人のキス、だよ」
「お、オトナ? これが……?」
し、し……舌を、入れるの……が?
「お前には、まだ早かったか?」
む。
「へ、平気……」
両手をぎゅっと握り締めるボクを見て、クラウスが、くくっと笑う。
「無理すんな」
「無理じゃないっ」
「じゃあ……、覚悟しろ」
どきん。
鼓動が跳ねた。
「目を瞑って」
「う、うん……」
ボクは言われた通りにする。
ボクの顎に指がかかる。撫でるように、そっと。
吐息が……迫る。
どきん、どきん。
……ちう♡
あ、これは初めと同じ。
それから舌先が触れて、……くちびるが濡らされる。端から端まで……。
クラウスがボクの腰に腕を回した。
動けないよ……。
「少しだけ、口開けろ」
少しだけ? 少しだけって……。
あ。
舌が、入ってきた。
ん……、息できな……やっぱり……だ、め……、
躱しても、躱しても追ってくる。
指が震えて、シャツがすべる。
「ユリウス……逃げるな」
熱っぽい囁き。口のなかいっぱいに。
そんなこと言ったって……。
舌が、つかまった。
あ……、や……だめ……も、無理……。
お願……い。
ちから……、抜け、る……、
気が、とおく……。
かくん、と膝が落ちた。
「おっと……」
ぼんやりとした視界のなかで、ボクは、クラウスに抱き止められる。
「やっぱり、ちょっと早過ぎたか?」
言い返す気力はもうなくて……、
ボクは、だらんと腕を下ろしたまま、暫くの間、彼の胸に埋まっていた。
顔だけじゃなくて、躰の奥まで、じわりと熱く疼くような……感じたことのない感覚。
彼の躰も、なんだか熱い……。
「お前の舌は、甘いな……」
「え? 甘いものなんて、いつ食べたかな……?」
ぶはっ!!
とクラウスが吹き出した。
「な、なんで笑うの?」
「いや……、くく……」
そんなボクの顔を熱い目がじっと見つめる。乱れた髪を撫でられて気持ちいい……。
「好きだ、ユリウス」
最後は……ソフトな優しいキス。
うん……、ボクも……。
大好きだよ、クラウス。