書いたのが2018年12月25日の新幹線の中だったので新幹線前

 

~新幹線の中で思い付きました。富士山は見えませんでした。(当時のpixivのキャプションより)~

 

先日、東京に行った時は、(ぼんやりとではあったけど)富士山の全景が見えたので驚いて二度見した(綺麗に見えた試しがない)びっくり富士山

 

 

 

 

クリスマスの夜である──。

 

夜中の12時を過ぎても、グランディエ家の銀杏イチョウの樹は大揺れ警報状態だった。恐らく枝葉の先は、ジャルジェ家の屋根にまで覆い被さっているだろう(葉が残っているのが不思議なくらいだ)。

 

──今夜は一段と激しいなあ……。


野獣の慟哭のような風鳴りを聴きながら、ベッドの中で、アンドレは思った。

嵐の夜でも、オスカルがアンドレのベッドに飛び込んで来ることは最近は減ってきた。16歳の乙女なのだから、当然と言えば当然だ。


彼女なりに思慮分別がついてきたということだろうか。

 

なんとなく寂しい気もするが、だからと言って今、飛び込んでこられても、はっきり言ってヒジョーに困る。半分はホッとしているのが正直なところであった。

 

ところが。

─バタン!!
「ん?」
─ボスンッ!!
「……え?」

 

突然、何かがベッドに潜り込み、アンドレの背中に柔らかな物体が、ぴと……と貼りついてきた。
そして、なんだかふるふると震えている。

 

──まさか……?
「あの……、オスカル?」
「……うん」
──ええぇっっ!!!???

 

前言撤回。

 

「ちょっとだけ、背中貸せ」
真夜中に、よその家に転がり込んでおいて、なんという上から目線。
「あ、あのね……オスカル」
「何だ?」
「これは……、とってもマズいと思うんだけど」
「どうしてだ?」

 

「どうしてって……」
──どうしてもluffaヘチマもないだろがぁッ!!
「あのさぁオスカル」

 

「わたしだって、そろそろ一人で耐え抜かなくてはと努力していたんだ。なのに何だ、今夜のこの荒れようは? いくら何でも限界だ!
それでもって、なんでよりによってわたしの部屋の真上の屋根にぶつかるんだ? バンバンバンバン、眠れるわけないだろーが! どーなってるんだ、お前んちの銀杏の樹はっ!?」

 

「そ、そんなこと言われても……」
──え? 逆ギレ? てか俺のせい?
「オスカル、鍵、開いてたの?」

 

「開いていたぞ。流石お前の母さんは、いつも気が利くな」

 

──なんで開けてたんだよ? 母さぁん……。

 

さっきから興奮して捲し立てるオスカルの吐息が首筋に当たり、そこだけが熱をもち、アンドレは辛抱堪らなくなってきた。
顔が見えないのが反って災いし、数倍数十倍増しで青少年の妄想を掻き立て始める。

 

「オスカル……、そっち向いても良い?」
「ダメだ」
「どうして?」
「その……、慌てて来たから服が……」

 

「服?」
「上が、タンクトップ一枚なのだ」
しかもノーブラなのだ……は賢明にも飲み込んだ。
「え? し、下は?」
「……短パン」

 

──ぬわぁんだってえぇーー!?

 

「お前っ、直ぐに出ろ!!」
「はぁ? 恐怖と寒さで震えている幼馴染みを放り出すのかっ!?」

 

──それが恐怖で震えてる態度かよッ!!

 

「だいたい今は真冬だぞ! なんでそんなに薄着なんだよ?」
「文句あるか! 薄着の何が悪い? 分厚いのは寝苦しくて嫌なんだ!!」

1が100になって返ってくる。
勝てない……、と彼は意気消沈し降参した。

 

…ガタガタガタ……
窓の音ではない。


「……オスカル、寒いの?」
「あの強風の中、ダッシュしてきたから、すっかり冷えてしまった」

「馬鹿だなぁ。何か羽織ってくれば良かったのに」
「そんな余裕があったら此処には来ない」

 

──はいはい。あぁ……もうしょうがないなぁ。
アンドレは躰を回転させる。

「わあっ! こっち向くなと言ったのにっ!」
暗闇でオスカルが叫んだ。
「大丈夫。どうせ真っ暗だから見えないよ」

 

そう言って、彼は彼女の躰を抱き寄せる。己の欲望を封じ込め、アンドレは束の間息を止めた。
闇の中で、戸惑うように空気が揺らぐ。
「風邪引いたら困るだろ? 温まるまでな」
「……」

 

優しい声と温もりが少女の冷えた躰を包み込む。
逃れようと思ったが、予想外の温もりに躰の力が抜けていく。そして、想像以上の腕の逞しさに、胸の鼓動がドキンドキンと高鳴り始める。

 

──あれ……? アンドレの腕って、こんながっちりしてたっけ? 昔はもっと細くて柔らかくて……。だけど……ふぅ…あったかいなぁ……。

 

「どうした? まだ寒い?」
腕の中で、もぞもぞ動く幼馴染みが可愛かった。
「だ、……大丈夫」

 

だがしかし、アンドレとて弱冠17歳。30ウン歳の大人のように、突き上げる熱きものを押し止められるわけもなく、いつまでも息を止めていられる筈もなく。
嫌でも鼻先に触れる髪に、アンドレは心の中で身悶えする。

 

──あぁぁ、なんでこんなに柔らかくていい匂いがするんだよぅ? 昔はただ好き勝手に跳ねてる髪にしか見えなかったのに。

これってシャンプーの香りかな? 去年までは、ここまで感じなかったよなぁ。女の子って一年でこんなに変わるもんなのか? 耐えろ、耐えるんだ、俺!!

 

アンドレよ、オスカルが変わったのではない。お前自身に不埒な色慾が取り憑いているだけなのじゃ。(by神様)

 

そうして──アンドレにとって、生まれてこのかた味わったことのない長い長い苛酷な夜が……明けた。

オスカルは、無防備にも、あのままぐっすりと眠ってしまった。
アンドレは、明け方になって漸くうとうとしたのだが、朝日とともに薄目をぼんやりと開けた途端、再覚醒した。

 

何故ならば──、彼の隣で、すうすう寝ている幼馴染みのタンクトップを纏った肢体が、黒曜石の瞳孔の中でばっちり焦点を合わせていたからだ。
その隙間から、まだまだ未熟な水蜜桃を覗かせて……。

 

アンドレは叫ぶ。

──主よ、我を地獄へ……!!!