if... ~Another story~♯01
「もうあれから三年か…」
煙草の煙が夜風と混じって冷たい都会の空に消えてゆく。
今ではすっかり仕事にも慣れ、それなりな人間関係も築けた職場はいつも誰かの足を引っ張る陰口で充満している。
非常階段にひっそりと設けられた喫煙スペースだけが、社交的な自分を演じる事から解放される唯一の場所だった。
そこから見える眩い光を放つ新宿の高層ビルの群れはいつもどこか寂しげだ。
ゆきなとの出会いは、友人の紹介だった。
「どうしても会わせたい子がいるから逢ってやってくれよ」
その友人とは過去にインディーズではトップレベルと言われる某全国ツアーを一緒に回った仲。
元々お互いにライバル視するバンドに所属していたが、いつしか腹を割って話ができる大切な仲間になっていた。
「しょうがねぇな。」
最初は、こんな感じ。
俺は両親を悲しませない為だけにとりあえず高校だけは卒業して、それからの人生を全て音楽に捧げてきた。
だから今更彼女なんていう存在は欲しくもなんともなかった。
女を信じてなかったわけじゃない。
ただ、彼女とデートなんてしてる暇があったら一曲でも多く良い曲を書いて音楽での成功を勝ち取りたかったのだ。
そんな感じで正直あまり乗り気ではなかった約束の当日。
待ち合わせは、職場のすぐ近くのちょっと小ジャレた喫茶店。
打ち合わせでよく使う場所だ。
「はじめまして。ゆきなです。」
「あ、どうも。本名はゆうきって言います」
ゆるく巻かれた栗色の胸まである長い髪、少し鼻にかかったやさしい声、時折見せる右側のえくぼが、いつしか俺を虜にしていた。
話した内容なんて覚えちゃいない。
ただ、今自分の目の前に現れたゆきなの事をその時少しでも多く知りたい欲求に自分を抑える事ができなかっただけだ。
恋に落ちるとはこの事を言うのだろうか。
俺はこの場所からゆきなを連れ去ってしまう終電の時間だけを気にして夢中で話し続けていた。
ねぇ、君は今でも覚えてる?
駅まで君を送る帰り道
赤く点滅を始めた信号機のせいにして、
二人は初めて手を繋いだんだ。
To be Continued...(これが好評なら)
※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。
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