Fateの二次創作です!

これから複雑なブログは更新できなさそうなんで


毎日このようなのをupしていこうと思います




ブログとしか言いようがありません

いつか蘇る王―プロローグ―






 其れは正に、偉大な竜の咆哮だった。
 ただの一閃で、私を襲う穿孔の釘剣を、まるで羽虫のようにあしらっていた。

「ぁ――」

 その感嘆は、誰の漏らしたものだったのか。
 斃れた少年では有り得まい。では黒衣を纏った闇の女か、或いはそれを従えた魔術師の道化だろうか。
 しかしまあ、他でも無い私自身こそが、きっと犯人だっただろう。

 なんせ遠坂凛は、目の前に立つ青い剣士に、これ以上無いくらい見惚れてしまっているんだから。

 金砂を流したような髪も、宝玉の如き深碧の瞳も、白磁も敵わぬ滑らかな肌も――そして何より、爆風の如く撒き散らされる膨大な魔力も。全てが、この空間を支配するに相応しい存在感でもって、そこに在る。

 それは、第六のサーヴァントが降臨した瞬間だった。

 昼は日常の象徴であるこの教室を異界たらしめているのは、転がる椅子でも砕けた机でもない。殺された生徒も夥しい血痕も闇を彩る黒い女も、全ては色褪せてしまっている。たった一人の剣士こそが、世界を幻想に固めている。

「う、嘘だろ?こんなトコで、サーヴァントを召還しただって――!?」

 うろたえる道化の声は、誰の耳にも届くことは無い。
 だって今、挙動を赦された人物はたった一人、この小柄で華奢で、何よりも威風を伴った少女だけ。
 たった今、私が召還した、この少女だけだ。

「――問おう。貴女が、私のマスターか?」

 月光を背に負い、彼女は問う。
 涼やかな鈴の音色にも似ていながら、虚偽を赦さぬ英雄の言葉。
 その声を、その眼差しを真っ直ぐに受け止めて、私はしっかりと頷いた。

「ええ――この私…遠坂凛が、あなたのマスターよ」

 それに満足したのだろうか、少女は抜き身の剣を眼前に構え、誓いを告げた。

「――サーヴァント、セイバー。契約に従い、此処に馳せ参じた。私は今より貴女の剣となり、その御前に勝利の道を切り開くことを宣誓する」

 何一つ動かない世界で、その声だけが浸透する。
 可憐な華のように美しく、獅子の王の如く凛々しいその姿は、触れ合えるほど近いのにあたかも高原から臨む絶景のよう。
 ならばこの瞬間を、喩え死すとも忘れまい。

 よって、理解した。

 ――私は、最強の、最良の、そして最高のカードを、今此処に手繰り寄せたのだと。










 その日、遠坂家の時計は全部狂っていた。
 何故かは知らない。父の形見のペンダントを発掘したことと何か関連があるのかも知れないが――まあ、重要なのはそこじゃない。
 今のところ問題は、早起きし過ぎてしまったことくらいだった。

 早起きそのものは大いに結構。
 綾子には冷やかされたが、それも笑い話に過ぎない。お陰で、桜の顔を見ることも出来た。慎二に絡まれたのは面倒と言えば面倒だったが、それとて些事に変わりは無い。その後、藤村先生を筆頭に、柳洞一成や衛宮士郎と言った、ちょっとした顔見知りと廊下で擦れ違ったものの、これまた珍しくはあっても変わったことでは無かった。

 ――そう、大した話では無いハズだったのだ――



「…何、これ」

 三枝由紀香からの昼食同伴を柔らかく断り、屋上へ出る。
 それは、遠坂凛の、普段からのスタイルだ。いつも優等生でいるのは、疲れるわけではないけれど、やっぱり何か満たされないような錯覚を覚えるのも事実。その点、誰もいない屋上は、傍目を気にせず振る舞える。
 安息、或いは憩いの場所とも言えたかも知れない。

 ――この異変を見るまでは、の話だが。

「……」

 屋上の最中、コンクリートの無機質な床のど真ん中に。隠そうともしない、血の呪刻が穿たれていた。
 魔術師であれば誰でも気付くであろうソレは、明らかに結界の起点である。それでいて複雑怪奇な構成を誇り、解除の方法など糸口さえ見つからない。
 分かることは、コレが発動すれば範囲内の生物は悉く肉体を溶かされ、その魂を奪われることくらいである。
 要するに、一見しただけで、凛の吐き気と嫌悪を呼び起こすには十分だった。

「――っ、何よ、これは」

 もう一度、呟く。
 魂を奪い集める結界。
 アカシャの蛇でもあるまいし、魂なんて扱う魔術師は居ないだろう。にも関わらず、こんな結界を張るなど、誰だか知らないが乱心もいいところだ。
 下手人がどこの馬鹿だか想像も付かないが、見当は簡単につく。つまり、サーヴァントというやつはそういう存在なのだろう。第二、或いは第三要素を喰う。故にこそ、この結界。
 聖杯戦争はまだ始まっていない。だから、魔力の足りないどこかのマスター、或いはサーヴァントがコレを仕掛けた――

「これは、私もさっさとサーヴァントを呼ばないと拙いわね…」

 聖杯戦争において、最高のクラスとされる、セイバー。それを確実に呼び出すべく家で媒体と成り得るものを探していたが、終ぞ今日まで発見できなかった。だが、こんな結界を見てしまった以上、猶予は無い。

 今夜だ。
 今夜、サーヴァントを呼び出そう。なに、遠坂凛は非凡な魔術師。触媒なんて無くたって最高の英霊を呼び出して見せる。

 が、まあその前に。

「…このムカつく結界は、少々邪魔しとかないと落ち着かないわね」

 魔術刻印に魔力を通す。
 寒空の下、不気味な結界に手をかざし――

 不意に、扉が開く音を感じて、慌ててその手を引っ込めた。

「――あれ?」

 そんな間の抜けた声を漏らしながら現れたのは、今朝も会った男――衛宮士郎だった。





 ――予想外。ここでアイツに出会うなんて。
 幸い、魔術発動は見られていないようだが…油断していたのも事実。今度からはきちんと結界を張ってから施術したほうが良さそうだ。特に昼時は。
 遠坂凛は軽く反省を一秒程度で済ませ、にっこりと演技の微笑を浮かべた。優等生の仮面だ。

「あら、こんにちは衛宮君。また会いましたね」
「え――あ、遠坂…なんで、屋上に?」

 予想外だったのはあちらも同じようで、面食らった顔でそんなことを言う。
 その問いは実にマヌケである、と凛は思う。

「理由は衛宮君と同じだと思いますよ?」
「え!?」
「昼食、ここで食べるのが好きなんです。あなたも、ここで食べようと思ったから、来たのでしょう?」

 そう言って指差す――その仕草も極めて優雅――先は、士郎の手にぶらさがったもの。即ち、弁当箱だ。
 そんなもの持って屋上に来る人間の目的なんて、せいぜい一つだろう。

「へ――ああ、そっか。そうだよな。うん」
「?」

 なんだかカクカクとした動きで頷く士郎。それでいて少し嬉しそうでもある。
 遠坂凛というアイドルを相手に緊張して動きがぎこちなくなる、という人物は確かに結構いる。特に下級生には。しかし今朝の挨拶のことでも分かるが、衛宮士郎という人物は恐るべきマイペースを誇るため、彼に限って緊張とか照れとかは無いだろう。
 なら、どうして歯切れが悪いのか。
 弁当が目的ではなかった?
 だとすると――

「…まさかね」

 彼から魔術師の気配はしない。この結界の施術主かと一瞬疑ったが、そんな自分を即座に笑う。有り得ない。
 だから、華やかな笑顔のままで、提案した。優等生らしく、極自然に。

「そうだ、折角ですから、お昼御飯、ご一緒しませんか?」
「…え?」

 今度こそ、衛宮士郎は固まった。



 幾つかの他愛の無い会話をしているうちに昼食も終わり、やがて彼と共に屋上を去る。

(やれやれ…ま、結界の件は放課後にでもなんとかしますか)

 そう心で呟いて、二年の教室へ。途中で衛宮君と別れて、Aクラスに戻る。
 席につくと、自然と思考は彼のことに向かっていた。

(それにしても、ホントイメージ通り。真面目で、頑な。あの夕陽の、イメージと同じね…)

 思い出すのは、数年前の忘れえぬ記憶。
 途方も無い光景だった。
 決して雄大でも圧巻でも無い、むしろ矮小で空虚な様ですらあった。

 絶対飛べない高さを飛ぼうとする少年がいた、それだけの話。

 たったそれだけの、遠坂凛のトラウマ。
 何一つとして自分で選ばなかった道は無く、後悔なんて一つも無い人生なのに。同時に決定的な何かを何度も取りこぼして来た自分の人生を振り返れば。その少年の無駄な足掻きは、自分が捨てた『矛盾への挑戦』を突きつけられている気がしてしまって。
 脳裏に焼き付き、今も離れない。

 そんな少年と、一緒に昼食を摂った。
 それだけのこと。
 だけど、それほどのこと。

 勇気を貰ったわけでも無い、気分が良くなったわけでも無い、何一つとして得たものは無いと理性は言うのに。
 何故か、無価値なんかじゃなかった、と心は唱和していた。
 そして何より、そんな風に感じる自分が、凛は嫌いではなかった。







 ――やがて太陽が沈む。
 赤から黒へ染まり行く学校に残った人影は、4つ。
 教室で時を待つ魔術師。
 屋上で獲物を待つ道化。
 道化に使われる黒い下僕。
 そして、学校の備品を直して回る、正義の味方を目指す少年――