『リストカット 自傷行為をのりこえる』 林 直樹 著より

**自傷するには理由がある**
ご自身の身体を傷つけるのには、それ相応の理由があるはずです。
たとえば、あなたが自らの価値を認められず、ご自身が傷つくことを当然だと感じて自傷行為をおこなっているのなら、そう感じるにいたった事情をあ なたはきっと思い浮かべることができるでしょう。それは、心をこめて努力してきた試みが失敗して自尊心が大きく傷ついた、大切な人との関係がゆきづまって 絶望したといった体験かもしれません。このような出来事に対して、ご自分の身体を傷つけることで反応することは、けっして理解できないことではありませ ん。
しかし、自分の身体を傷つける人たちには、ほとんど常に別の事情も見出されます。それは、その人たちが「わたし」の本来の姿が見失われている状 態にあるということです。本来の自分ならしないであろう行動をとってしまうのは、どうしていいかわからなくなっているからなのです。そのような人たちで は、ほかにも矛盾した行動が見られて、それによって苦悩を増していることが少なくありません。

**「わたし」を取り戻す**
絶望にうちひしがれたり、自分の存在が否定されたと感じされられたりして、「どうしていいかわからない」状況に陥ることは、人生の中でけっしてま でれはありません。しかし、思い出してみてください。これまでのあなたは、そのような苦しい状況の中で、自分にふさわしいふるまいを選択することで「わた し」を作り上げてきたのではありませんか?そのような状況で「わたし」の問題に取り組むことは、あなたにとって大きな価値のある作業なのです。
そこで必要なのは、さまざまな行動のメリットとデメリットをよく検討して、「わたし」にふさわしい行動を選び取ることです。「どうしていいかわ からない」ままとった行動は、その時だけ苦痛を和らげるかもしれませんが、「わたし」を作り上げる材料にはなりません。ところが、じっくり考えて選んだ行 動は、それがたとえ完全な成功にいたらなくとも、新しい「わたし」の一部になってゆくのです。
私は、あなたが本来の「わたし」を取り戻して、ご自分にふさわしい行動を選択することが回復につながると考えています。しかしそうはいっても、 そのような作業は一般に容易ではありません。それは一時的に苦しみを増やすことすらあります。「わたし」が見失われているということは、それまでの自分の 認識と現実のずれが積み重なった結果ですから、容易に解消できないことが多いのです。
しかし、簡単に解決が見えてこなくとも、自分にふさわしい行動を選ぼうとする努力を続けることは大切です。その努力によってこそ、自分のあり方 を確立し、自尊心を回復する道が拓かれるにです。自傷行為への取り組みは、きっとこの重要な「わたし」の課題を進めることになるでしょう