地元1番の老舗百貨店を出ると、叩きつける様な雨だった。



数十分前の天気が嘘の様な雨の中を駆け抜ける。

車に着いた時には予想以上にびしょ濡れで、車を打つ雨音の中で笑う。

あまり知られていない裏口の前で母を拾い、車を走らせる。



父の親友のお宅には、1年前に来た時と同じように迷いながら着いた。

去年は家の前までだったが、今年はお邪魔してお線香を上げさせて頂いた。



父と最後に会ったのは10年以上前。

はっきりとした日付は覚えていない。

そりゃそうだ、10年以上前なんだから。


月日が経つほどに薄れゆく父の記憶。

それでも、父の口から出てくる人の名前で、仕事絡み以外の名前はこの方しか出なかった事は、はっきりと記憶している。



父は、その道では割と有名な人物らしい。

実際、仕事では賞をとったり、実力を評価する人、慕う人も多かった。


ただ、自分が嫌な事は全くしない人だった。

どんなに大切な行事、事柄でも、行きたくないところには行かない。

そして、とにかく様々な事にルーズだった。

大人がルーズで問題になること…分かりますよね(笑)



父の親友の奥様と私の母は仲が良い。

明け透けな会話から、昔の話や現在の状況が垣間見えた。



「聞きたくないことを聞かせたかしら」



帰りの車で母は言った。



どうなのか、分からなかった。

何と言うか…分からなかったんだ。



私は長男で、父に可愛がられた。

確かに、苦労し続けた母を見るのは辛かった。

けれど、父を心から恨むことはなかった気がする。


そう言えば、10数年前に父が入院した病院に今年自分が入院することになった時。

父に泣きながら訴えた場所で妻と話していたら、涙が止まらなくなった事があった。

それが、どういう感情によって溢れたのか…やっぱり分からない。



「お父さんが会いたいって言ったら、会える?」



父の親友の奥様が私に聞いた。


私は、答えに窮した。

やっぱり、分からないんだ。



「お母さんに悪いって思うのかな」



そうかも知れない。

でも、やっぱり分からない。



とりあえず、今は分からない方が良い様な気がする。

何かのきっかけで、向き合う時が来るだろうし。



孫に会いたいと思っているだろうか?

大きくなってますよ、順調にね。




男の子みたいな娘だけれど、元気です。

妻に似て、天真爛漫で声が大きくて、おしゃべりです。


この狭い町にお互い暮らし、20年近く。

確率的に、そろそろどこかでバッタリお会いする気がします。


それまでに、どちらかが死んでしまうでしょうか?

それもまた運命。


フェータリストではないけれど、ギャンブル好きな親子だから、運を天に任せてみる方が我々らしくて良い気がします。



2年先まで仕事のスケジュールが入っているそうですね。

とりあえず、お体にお気をつけて…。



敬具。