横山館長が亡くなる前の1ヶ月間は、毎週病院へと足を運び、時間を過ごした。
7年前館長にご指導頂こうとヒューストンへ行った時は4日間、1日10時間は稽古して頂いたり深夜まで会話していたほどだったから、病院でも話は尽きなかった。
それでも「また来てよ」と言う言葉を鵜呑みにして、ご迷惑を考えずに館長の大切な時間をご一緒させて頂いた。
その時に受け取ったのがこの帯。
「矢口くん、これ受け取ってよ。そしてあとは頼む」

楽しくお話ししている時には病気を忘れてしまうほどだったのに、いきなり現実を叩きつけられた気がして鳥肌が立ち思考が固まった。


押忍、と言うのが精一杯で戸惑う自分をよそに、館長が普通にお喋りし始めたので救われたけど。
そう、全てが普通だった。
「俺、癌だからね、そりゃ痛いよ」
ご自身を保つ為に薬は服用せず平然としておられる。
館長には空手のみならず、人間としての強さを学んだ時だった。
「強さにはいろいろある、肉体的、精神的、技術的、だから人それぞれ空手をやる目的が違ってもいい」

組手で強くなるだけが目的でなく、社会を生き抜く強さなども空手から得て欲しい、その姿を見た人が「空手やってる人はすごいな」そう思わせたら勝ちだよ

やっぱり他の格闘技とかではなく、空手ってすごいって思われたいじゃない(館長談)


それもまた館長の求める空手愛であり、自分が引き継ぐ館長の意思。
いろいろな意味で、強く在りたいね。