盛田隆二 身も心も(テーマ競作小説「死様」) | s2uoxouさんのブログ

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突然に妻を失って、生前ありがとうの言葉ひとつかけてやれなかったことが悔やむ老人が絵画同好会で知り合った女性と恋に落ちる話。

75歳の主人公・礼二郎は妻を亡くし家に閉じこもり人付き合いをしない生活はお祖父ちゃんに重なり、悲しくなってしまった。息子に勧められ嫌々ながらも老人クラブの絵画同好会に入会するが、描いて2回目なのに講師に褒められるのは嬉しかった。そこで礼二郎は64歳の外見が華やかな女性・幸子に出会い惹かれる。いくつになっても男は美人に弱いんだなぁと思う。礼二郎の描いた絵がきっかけで話をするようになる。そして礼二郎は六年前に妻を脳溢血で急に失った事を話し出す。ただ威張り腐っているダメ亭主だったのに妻は文句を言わずに尽くしてくれた。なのに生前ありがとうの言葉ひとつかけなかったことを悔やんでいる礼二郎の想いに涙が溢れる。亡くして初めて相手の存在の大きさに気づくのはよくある事だ。妻の亡き後、喪失感を味わい、食事も喉が通らなくなり15kg減り、日常生活が出来ず要介護1になるまで精神的に参った礼二郎、どれほど辛かったろうとまた涙が溢れる。息子夫婦と同居し一人で妻の墓参りに出かけるまで回復したのは良かったが、居場所が感じられないのは悲しい。気力が今でも抱える礼二郎が心配になる。そんな礼二郎の辛い
話を幸子は親身になって聞いてくれ、幸子の家で手料理をご馳走になったり公園でスケッチをしたり二人が親密になるのは嬉しい。礼二郎が妻の墓に幸子との付き合いを話し罪悪感を感じているのは妻思いの人だなぁと感心する。二人は愛し合い体の関係まで持つのには驚いた。愛する人と体を重ねたいという気持ちは年を取っても変わらないんだと思う。礼二郎は息子夫婦に交際を知られるのを恐れて、内緒で買った携帯電話でメールのやりとりをするがを内容が微笑ましい。だが息子はメールを盗み見てメール相手の女性とはどのような関係で何をしている人かと問いただされる。息子夫婦は礼二郎が交際するのを恥ずかしいと言い、咎める口調なのは悔しい。お年寄りだって恋したって良いじゃない。礼二郎に心の拠り所が出来て明るくなったのを喜んでくれたら良いのにと息子夫婦に不満を持つ。その後息子夫婦は礼二郎の再婚を考えて土地を生前贈与した方がいいかと話していた。お金の心配ばかりして礼二郎の事は考えないかと苛立った。礼二郎はなぜこんな老いぼれの相手をしてくれるのかと訊ねると幸子は凄まじい過去を話し出す。父はDV男、中3の時に父の会社が倒
産し夜逃げするが高校入学後に父は殺害されてしまう。幸子は21歳で芸能界入りし恋した映画監督に暴力をふるわれピンク映画に出演する。妻がいる映画監督に貢いだり命令に耐えたりする幸子は父と母の関係そっくりと気づいているのに抜け出せないのはヤキモキする。映画監督にそそのかされ、覚醒剤を使用し逮捕されてしまうねはあんまりだった。出所後も覚醒剤の後遺症に苦しみながら旅館を転々と暮らしていたのは並大抵ならぬ大変さ。今も後遺症で過呼吸やフラッシュバックが起こり人を好きになる資格がないという幸子にはそんな事ないと言ってあげたくなる。礼二郎は幸子の苦しみを受け止め、これからも変わらず一緒にいると言い懐の大きさを感じる。だが礼二郎は幸子からの家から帰る途中に脳梗塞を起こし入院し寝たきり生活。「あーうー」としか声が出ず幸子が見舞いに来ても意思の疎通が出来なくて悔しい。だが幸子は毎日見舞いに来て献身的にお世話し、礼二郎はリハビリに励み大部回復するのは良かった。それなのに退院後は介護施設に入れられてしまう。息子夫婦の気持ちもわかるが自営業なんだから自宅で介護刷れば良いのに。礼二郎は幸子が訪ね
てきてから懸命に歩行のリハビリに励み花見に行く約束を果たそうとするのは凄い!礼二郎は脳梗塞が再発し倒れ幸子との約束は叶わず残念。段々と記憶力が衰え幸子の事まで忘れてしまうのではと恐れる礼二郎を最後まで幸子が一緒にいるのは良かった。

愛する人が誰だかわからなくる、自分が先に亡くなる、相手が先に亡くなる、など様々な恐怖があるが恋をする二人が良かった。最期にお互いを思いやれる人に出会えて良かった。愛される人に看取られて亡くなった礼二郎は幸せだと思う。