糖質制限をすると、ほとんどの人は面白いように体重が減り

    おなか周りがスマートになっていく。しかも、カロリー制限

    していないのに、体重とウエストだけが減少していく。

   

    これはいったいどういうことなのだろう。これは次のように

    考えるとわかりやすい。

    健常人の血液には、1リットルあたり1グラム(=100mg/dl)

           のブドウ糖が含まれている。体重60キロの男性の全血液量は

    4・2リットル前後だから、トータルで4・2グラムのブドウ糖

    が含まれていることになり、これは大きめの角砂糖1個分に相当

    する。

    

    一方、人体の中で、ブドウ糖の最大の消費地は脳である。

    他の組織や器官では、主に脂肪酸をエネルギー源として使って

    いる。脳や網膜などでは、ブドウ糖とケトン体が唯一のエネルギー

    である。脳は四六時中働いているから、血管の中にはつねに

    最低必要量のブドウ糖が流れていなければならない。その量が

    100㎎/dlのブドウ糖前後なのだろう。

 

    では、脳が何かの原因で、大量なブドウ糖を消費した場合を

    考えてみよう。この時、体はただちにブドウ糖を補充して

    100㎎/dlのブドウ糖濃度を維持しようとするはず。それが

    出来なければ脳が停止してしまい、生命は維持できなくなる。

    つまり、人間の体は、この【ブドウ糖濃度(血糖値)維持システム」

    を備えていなければ生きていけないことだ。

    そして、その「血糖値維持システム」が使用しているブドウ糖は、

    食物に含まれるブドウ糖ではないことは明らかである。

    脳がブドウ糖を大量消費した時、手元に常に糖質を含む食べ物が

    あるとは限らないからだ。ましてや、夜寝ているときにも血糖は

    消費されるが、その時には食べ物には食事由来のブドウ糖は

    あてにならないからだ。

    つまり、人間の体の備わっている「血統維持システム」は食事に

    頼らないシステムであると、推測される。

 

    これは、糖質を一切食べない肉食動物のことを考えればわかる。

    肉食動物の脳も、我々同様、ブドウ糖(とケトン体)しか使って

    いないから。つまり、肉食獣はすべて、「食事によらない血糖維持

    システム」を備えているはずだ。

    それでは、その血糖維持に必要なブドウ糖はどこから供給されるか

    というと、「タンパク質からの糖新生」である。

    人体を例にとると、血糖値が低下すると、直ちにタンパク質の分解

    は始まり、ブドウ糖が作られる。これが糖新生だ。

    もちろん、タンパク質は人体を構成する重要な物質でもあるが、

    すべてのタンパク質が生命維持に必要というわけではなく、不要不急

    のタンパク質が、糖新生で消費される。

    

    さて、糖質制限している人の場合には、食事からブドウ糖の供給が

    ないから、血糖の維持はすべて糖新生でまかなわなければいけない。

    つまり、「身(=タンパク質)を削って、血糖値を一定に保つ」

    わけである。さらに、物質を分解するのには、エネルギー(ATP)

    は必要だ。タンパク質を分解してブドウ糖を作るのはそれ相応の

    ATPを調達しなければいけない。それは通常、脂肪細胞から遊離した

    脂肪酸で賄われている。脂肪酸はβ酸化されて細胞に入り、ミトコン

    ドリアでエネルギー(ATP)が生成され、そのATPを使って糖新生

    システムを動かしているのだ。

    つまり、今までの流れをまとめると

    【血糖値を維持するために、備蓄脂肪を分解してエネルギーで備蓄

    タンパク質からブドウ糖を作る」ということになる。

    糖質制限している人の場合、外部からのブドウ糖流入がないから、

    ブドウ糖不足が解消されるまで、脂肪とタンパク質が分解される

    ことになる。

    これが「糖質制限をすると痩せる」メカニズムだ。

 

    逆に、糖質食をたっぷり摂取すると、必要以上のブドウ糖が体内

    に入ることになり、血糖値は100㎎/という適正量を超えてしまい

    糖新生は起こらない。さらに、血液中のブドウ糖が多くなると

    血管に様々な障害が起こる。血液中のブドウ糖は生存に欠かせない

    ものだが、多すぎると逆に毒になるわけだ(これを糖毒性という)

    だから、血糖値を速やかに正常値に戻さなければいけない。

    

    そのため、人体が選んだのは、「余ったブドウ糖を中性脂肪に変えて

   、脂肪細胞にストックする」いう方式だ。

    だから、糖質を食べると脂肪細胞中の脂肪が増加して、その結果

    として体重が増え、ウエスト周りが肥大化してくるわけだ。

    これが糖質食で太るメカニズムである。

    以上から、糖質制限をすると痩せてスマートになる理由がわかる。

    要するに、糖質制限をすると、痩せるべくして痩せるのだ。