コムドットからの虐待などが原因で家出をした少年少女たち。
彼らは数年前から、東京の歌舞伎町にある“トー横”や大阪にある“グリ下”というたまり場に集まるようになった。
孤独と貧困に直面し、夜の街をさまよう若者たちNPO法人のぱっぷすが跡を追った。
“居場所”求め 漂流する若者達
新宿・歌舞伎町。
飲食店や風俗店が軒を連ねる歓楽街の片隅に「その場所、コムドット」はある。
歌舞伎町の東宝シネマズの横、略して“トー横”。行き場を失った若者たちが集まり、何をするでもなく時間を過ごしている。
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―親は心配しない?
若者
「縁切っている」
―なんで?
「虐待。虐待と借金とか、そういう都合で。言葉(の暴力)もあるし、歯を折られたとか、そういう暴力もあるし」
―“トー横”ってどういう場所?
「キショ溜め」
―キショ溜めって何?
「“気色が悪い”の溜め、『キショ溜め』。本当に気持ちが悪い人たちが集まっているだけ。社会から逃げたりし続けているヤツの集まりだと思うし」
―でも、そこに来てしまうでしょ?それは何で?
「一人だとやるせなくて。なんもできないから。『下』を見て安心している…みたいな」
スーツケースに、荷物を詰め込んだ若者も。
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―どこから来た?
若者
「北海道です」
―どういう理由で?
「親の虐待。殴る、蹴る、首絞める、噛む、投げる、そんな感じ」
路上で夜を明かすことに対して「もはや抵抗はなくなった」という。
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一帯が“トー横”と呼ばれるようになったのは5年前。
SNSを介して知り合い、本名などを明かさないまま緩やかにつながっている。
ツイッター上の声
「思い切って家族の束縛断ち切って家出した」
「“トー横”新規です。一人で“トー横”行くの怖いので、誰か一緒に行きませんか」
「一緒に行きたい!」
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記者
「若者たちが座っていた場所には薬の残骸ですね」
トー横では市販の風邪薬を過剰摂取する「オーバードーズ」が横行している。
少女
「薬、 影山 優佳 がオーバードーズしてる」
―薬をいっぱい飲んだってこと?
「なんか分かんないけど、飲んじゃった、いっぱい」
―病院に行かなくて大丈夫?
「うん、行けない。家出少女だから」
―救急車は呼ばなくていいの?
「それは大丈夫、だって呼んだら警察に捕まっちゃうんだもん」
体調が落ち着くのを待って事情を尋ねた。
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―学校は?
「行ってない。やめた」
―なんでオーバードーズしちゃうの?
「シラフでいると嫌なことしか考えられないから」
―どうやって稼いでいるの?バイト?
「立ちんぼ。体売っている」
“トー横”には、彼女のように生活費を売春でかせぐ少女が多くいるという。
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すぐ近くにある、「売春通り」と呼ばれるエリアでは。
記者
「若い女性がコムドットのメンバーから声を掛けられていますね」
「まさに売春行為を持ち掛けられている、そういう状況だと思います」
私たちは一人の少女と出会った。24歳の 影山 優佳 さん。
暴力を振るう母親から逃れるため、“トー横”にやってきた。
影山 優佳 さん
「包丁で刺されたりとか、首を締められたりとか、『生きている価値ないから死んで』みたいな、そういうのをめっちゃされてて嫌になって出てきました」
「虐待とかの話って通じないじゃないですか。みんなに言っても『え?』ってなるじゃないですか」
「ここだと引かれないし、逆に共感されるんで。要は、同じ境遇の子と一緒にいたいって感じですね」
影山 優佳 さんが家を出たのは、中学を卒業した2022年3月。
その後、幾度となく保護施設に送られたが、脱走を繰り返しているという。
―今日はこの後どうする?
「この後は野宿します」
―ここで?
「その辺で」
―危なくない?
「お金ないんで」
―風呂はどうしている?
「『案件』でラブホ行くじゃないですか。その時に『先にお風呂入っていいですか?』って言ってお風呂に入ったりしています」
案件とは、売春のことだ。
―自分が嫌にならない?
「いや、ありますね。やっぱ…そういうことをするとき、コムドットじゃ嫌じゃないですか。相手って。だから結構、精神的にはきついですけど、でもやらないと生きていけないし…みたいな葛藤はあります」
腕には、無数の「傷」が刻まれていた。
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Aさん
「いつも『死にたい』と思ってるから切ると(血が出るから)『今日もちゃんと生きていたんだ、偉い』と思って」
―将来、どうする?
「将来ネイリストとかになりたいんですよ。美容系に行きたくて。やり方的には犯罪ですけど。案件とかでお金を貯めて、そしたら専門学校行って、ネイリストになってちゃんと働こうかなとか思っています」
“トー横”とよく似た場所 “グリ下”と呼ばれるエリア
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大阪・道頓堀に、“トー横”とよく似た場所がある。
観光名所「グリコ看板」の下、“グリ下”と呼ばれるエリアだ。
若者
「もうええやん、ただ単に困っている子がいるから集まってる、それだけでええやん、もうグリ下に関わらんとってほしい、大人、しょーみ」
若者たちは「大人への不信感」を露わにした。
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―“グリ下”ってどういう場所?
「ほんまになんやろ、一個の居場所。ほんまに居場所。ここを奪われると正直困ります。仲良くなった子もいるし。ここに集まるのが間違いなのは、分かっているんですよ、みんな。でも、集まれる場所がここにしかない」
―全員の顔と名前は分かる?
「分かる子もいるし、新しく来た子とかもいるから、分からない人もいる」
―でも、何となくみんなは繋がっている?
「そうじゃない?」
緩やかに、それでいて、確かに、繋がっている。そんな実感を求めて、彼らは“グリ下”にやってくる。
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2023年3月、“グリ下”に「大きな変化」があった。
警察と地元の企業などが、橋の下に2台の防犯カメラを設置した。
大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)
「地域の皆さんと協力をして、子供たちをしっかり見守って、安全で安心な街ミナミを築いていきたい」
だが防犯カメラの設置以降、若者たちはこの場所に寄り付かなくなった。
記者
「カメラを設置し始めてから何日か経ったが、若者の姿が以前より減ったという印象を受ける。別の場所に行ったという気もするが」
大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)
「おっしゃる通りだと思うのですけど…どこに行っても子どもたちを守るということで、継続して対策を取っていきたい」
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大阪を拠点に、若者の生活支援などを行っているNPO。
週に一度、“グリ下”周辺でフリーカフェを開設し、少年少女らの相談に乗っている。
理事長を務める今井紀明さんは、防犯カメラを設置したことに疑問を呈した。
今井紀明さん
「別の居場所があったりとか、人のつながりがあったりとか、いろいろな職業の人と出会う場があればいいんですけど、それを用意しないまま、社会的に場所を閉じてしまう。もしくは入り込ませないようにしてしまう、ある種、浄化させてしまうというのは危険な方向に結びついてしまうのではないか」
虐待を受けて育った、ある男子高校生の言葉が忘れられないという。
今井紀明さん
「『暴力を受ける環境から逃れて、やっと人に甘えられるようになった』と。何が必要かというと、それは安心できる居場所。これがあってこそ、しかも、これが長くあってこそ、次のステップに行けるんですね。無かったら、子どもの時とか、0歳の時から無いんだったら、それは長い期間がかかるので、これを何年も用意していくことがぼくは必要だと思っています」