目の前でちぎれてゆらゆらと揺れるネックレスを呆然と見つめた。

 

 

な・・・なんてことすんの・・・。

 

 

私がそう返すとリュウはわざとらしく、

私の目をじーっと見ながら、

これ見よがしにゆっくりと2つの指を離した。

 

カシャンと再び音を立てて床にネックレスが落ちる。

 

 

気に食わん。

 

 

・・・は?

気に食わんて・・・。

リュウもこれ、誰からもらったやつか知ってるじゃん。

 

 

リュウは面倒くさそうに薄い目で私を見る。

 

 

そのネックレスは姉の彼氏から誕生日のお祝いにもらったものだ。

それも姉が一緒に選んでくれたもの。

元カレでも男友達でも、

気になる相手からでもない。

 

 

ワレのことそーゆー風に見てないって、

なんで信じきれんねん。

 

 

は・・・?

絶対ないよ。

ダイキは兄以外のなんでもないわ。

失礼すぎる。

 

 

姉も姉の彼氏のダイキも二人とも社会人だったので、

学生の私をとてつもなく可愛がってくれた。

私がテスト期間で勉強してるとき、

もー根詰めすぎ~

勉強なんてそんなしなくても~

と言いながら夜中にファミレスに連れてってくれたり、

姉のプレゼントを二人でサプライズするのに協力し合ったり。

 

私にとって姉は今も昔も本当に大切な人だから、

彼であるダイキが姉に優しいことが本当にうれしかった。

姉の笑顔が私たち二人の幸せだった。

 

 

その気持ちはずっと以前からリュウに話していたし、

付き合っているときにとやかく言われたことは一度もなかった。

だからまさかリュウがダイキにまで嫉妬してるなんて想像もつかない。

 

 

煽るようにネックレスを落とした彼の行為は、

私の怒りの感情を大きく揺さぶった。

率直に、かなり腹を立てていた。

 

 

おねーちゃんが選んでくれたやつって知ってるよね。

 

 

カネ出したんは違うやろ。

 

 

・・・そういう問題じゃない。

私はダイキのこと家族同然に思ってる。

 

 

家族じゃねーし。

 

 

もういい。

とにかく、もうメールの転送やめて。

ていうか、もういい。

アドレスもう変えるから。

 

 

今までアドレスを変えなかったのは複雑な思いがいろいろあったから。

アドレスを変えることでリュウを刺激しないか怖かったのもあるし、

リュウ自身を嫌いになったからじゃないから、

そこまでする必要はないと心のどこかで思っていた。

 

けど、もういい。

 

 

そんなんしても意味ないしな。

 

 

鋭い目線でリュウは私をねめつける。

恐怖よりも怒りのほうが圧倒的に強くて、

私も強く睨み返した。

 

 

突然ドンとリュウが私の肩を強く押した。

思いっきり後ろに撥ねつけられ、

壁にぶつかり床に尻もちをついた。

 

 

やめてよ。

 

 

キッと彼を見返すと、

手が頭に伸びてきた。

思わず思い切り振り払うと、

思いのほか

パンッ!

と大きな音がした

 

 

ああ・・・ガーンやばいガーン

と思ったけど遅かった。

 

 

その音にはじかれるように、

リュウの表情はが攻撃的になる。

はじいた私の腕を強く握り、

反対の手の掌で顔を掴まれ壁に押し付けられた。

衝撃で後頭部がじんわりと熱い。

 

 

いた・・・。

 

 

わかってんの・・・?

 

 

なに・・・?

 

 

ただ恐怖におそわれてた前回とは違う。

私も怒りが沸点に達していた。

理不尽な行動に。

理不尽な暴力に。

 

 

俺、最悪いつ死んでももういいと思ってるんやわ。

 

 

何言ってんの・・・。

 

 

キツいことばっか。

何のためにこんな苦しいことばっかしてんのかわからん。

 

 

わかるよ。

リュウが辛かったんだろうことはわかる。

けどだからといって何をしたっていいわけじゃない。

わかるなんて言ったらわかるわけないって言われると思うけど。

でも私は間違いなくそう思うんだ。

 

 

死ぬんやったら一緒に連れてこーかな。

俺がそう思うことくらい、

もうわかるやろ・・・?

 

 

リュウはそう言って、

全く力を緩めずに私の顔を掴み続ける。

 

 

痛いって!

 

 

私は空いている足で思いっきりリュウの膝を蹴った。

 

体が離れた瞬間にすぐさま立ち上がった。

 

 

ねえ!怖いんですけど。

けどそれ以上に私、相当怒ってる。

こんな事されてることに、怒ってる!

 

 

なら・・・俺のそばにおって。

そしたらこんなことせん。

 

 

ふざけないで。

そんな暴力と脅しみたいなことで傍にいるってなったとして、

リュウはそれでいいの?

 

 

えーよ。

別に。

結果おまえがおりゃぁそれでいい。

 

 

っ・・・

大体・・・こんなことされてうんっていうと思ってんの?

 

 

再び近づいてくるリュウに慌ててポケットから携帯電話を出し、

リュウの顔に突き付けた。

 

 

それ以上近寄らないで。

 

 

そう言って画面を見せた。

表示させてる番号は、110。

通話ボタンを押せばつながる。

 

 

こうなった時のために十分にシミュレーションはしていた。

押したくはない。

けど必要な時は。

 

お願い!

お願いだから近づかないで!!

と心の中で叫んだ。

 

 

画面を見てリュウは止まった。

 

頭に手を入れ、

髪をくしゃっとした。

 

この仕草が胸が痛くなるほど好きな時もあったのに。

 

 

 

痛い思いさせて、悪かった。

 

 

 

リュウはそう一言いうと、

その場を後にした。

 

 

そして私はその日、

メールアドレスを変更した。