ただ名前を呼ばれるそんな程度の事なのに、

相手が清田だというだけで「サクラ」という名前が特別な熱を持つ。

清田が口にするだけで、

どうしてこんなに甘い言葉になるのだろう。

 

 

俺は?

 

 

清田が私の顔を覗き込む。

 

 

む、、、むりえーん

 

 

頬の紅潮に汗をかき、

思わずベッドに起き上がる。

清田も起き上がり、

壁際の私に詰め寄った。

 

 

いやいや、近い近い・・・タラー

 

 

そりゃ、

近づいてるからな。

 

 

焦りと緊張で喉が渇き、声が出ない。

 

 

なんで無理?

 

 

距離を詰める清田に、

あたふたと動揺する私。

 

 

もー今更、無理。

恥ずかしすぎるえーんアセアセ

 

 

サクラ。

 

 

やー!もうやめてやめてアセアセアセアセ

 

 

名前で呼ばないほうがいいの?

 

 

名前、の方がいいけど、

今はまだ免疫が・・・アセアセ

っていうか、連呼しないでアセアセ

 

 

サクラ。

 

 

完全に楽しまれているえーん

 

 

やーめてってばえーん泣

 

 

頭を抱えて下を向いた私の顔を、

そのさらに下から覗き込む。

 

 

ちょっと待ってって。

だから近いって・・・。

 

 

だから、近づいてるからな。

 

 

そういって、私の肩をポンと横に押した。

 

 

わ、わ、わ・・・。

 

 

ぱたんとベッドに倒れた私の上に跨り、

顔を近づける。

 

 

 

近い?

 

 

至近距離で問われた。

 

 

ち・・・かい・・・。

 

 

知ってるよ。

サクラはパーソナルエリア過敏な方だよな?

 

 

コクコクと首を縦に振った。

 

 

なんでわかるの。

 

 

だって、付き合う前からそうだったし。

勉強教えてるとき、

少しでも近づくと、

近づいた分そっと距離放してた。

 

 

気づいてたの?

 

 

分かりやすすぎるくらい、

分かりやすいよ(笑)

サクラが中学の時に周りからキツく当たられてた理由はそこにもあると思うけど。

 

 

え?

 

 

私のトラウマになってる中学時代。

その理由の糸口を垂らされて、

私は体を起こし、リュウに詰め寄った。

 

 

どういうこと?

 

 

仲良くなりたくて近づいてるのに、

あからさまに距離取られると嫌われてんのかなって思わん?

 

 

距離近いのが苦手なだけで、

嫌いだからじゃ・・・!

 

 

それは見てればわかるよ(笑)

けど、女子はそういうの気になるんじゃないの?

女子同士は仲の良さが距離の近さみたいなところ、

昔はあったじゃん。

で、嫌われるくらいなら嫌う、みたいな。

 

 

 

要因は自分でも色々自覚してたけど、

そこは気づいてなかったな・・・。

 

 

 

相手が女子でも接触は苦手だった。

好きな友達でも手を繋がれるのは抵抗があったし、

トイレに一緒に行くのも嫌だった。

 

 

男もプライド高いやつはそういうの気にするから、

一部の男子もキツく当たってたろ。

くっだらんと思ってみてたけど。

 

 

くだらないと思ってるんなら、

その時教えてよー・・・。

 

 

そう言うとリュウは少し口ごもった。

 

 

あー・・・。ごめんて。

別にその時は彼女でもなかったし・・・。

 

 

その頃のリュウの思考が透けて見えた。

 

 

私が悩んでても、

どーでもよかった・・・って?!

 

 

 

まぁ・・・ぶっちゃけそうだけど。

そこまで悩んでるようにも見えなかったけど・・・。

強い女やなと思ってた。

 

 

イーっとしかめ面をした。

 

 

虚勢張るしかなかったの!

 

 

大体さ、

サクラが一人でおるのを見るのが好きやったわけで。

それでお前に好感持ってた理由でもあるんだから、

結果良かったろ?

やな目に合っても、一人で平然と凛としとるお前は、

えらい綺麗やったぞ。

 

そう言うとリュウはまた起き上がった私の体をポンと押した。

敢えてゆっくりと近づくリュウの顔に、

また形勢が逆転する。

 

 

これはパーソナルエリア内、やろ。

近すぎ?

 

 

近すぎ・・・。

 

 

でも、

もうよくない?

 

 

え・・・。

 

 

俺、彼氏ですけど。

パーソナルエリアに入れてくんない?

 

 

心臓がどきどきして、

破裂しそうになった。

 

 

もう目を合わせられないどころか、

顔も清田を見れない。

けれどもちろん嫌じゃない。

 

 

恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかったけれど、

懸命の思いで言った。

 

 

・・どーぞ・・・。

 

 

声に出した言葉は思いっきり掠れて、

聞き取れないほどだったけれど、

清田に真意は伝わって、

わたしたちは初めてのキスをした。

 

 

 

唇を離すと、

 

で、名前は?

 

と笑いながら聞く。

 

 

それは今度で!!!

 

と顔を隠し、

悶え死にした。