『―先生から見て、名医の条件とはなんでしょうか?

「まず大切なのは、必要性の低い手術をせず、必要不可欠な手術だけを行うことです。これは当たり前と思われるかもしれませんが残念ながらそうではない手術も少なからず存在しています。

多くの病院で勤務医はインセンティブのない給与体系のもと働いていますが手術件数がのびれば診療科の評価につながりますし、学会で発表することもできる。ランキング本でも評価される。

さらに、現在、日本の自治体病院の9割以上が赤字で、民間病院にも余裕はありません。そうした病院の院長が、『手術件数を伸ばせ』と発破をかければ必要不可欠ではない手術もなされるかもしれません。また、先に述べた様に経済的理由以外にも誘惑があります。

多くのメディアが手術件数をもとにした医療機関のランキングを出していますが、これの弊害も無視できません。件数だけで評価されるのであれば、必要不可欠ではない手術、適応のあまい手術を行うことでランクインする事も可能でしょう。

 

実際、ある症例数トップクラスの大動脈瘤センターで『破裂するかもしれないので緊急入院の上、手術が必要』と説明されたものの慈恵に逃げてきた患者を幾人も診ましたが、ほとんどは手術の必要性すらない小さな大動脈瘤でした。

中には『緊急が手術』と言われてから慈恵で10年以上経過を見てからやっと手術が必要な大きさに達した患者もいます。大動脈瘤手術の死亡率はゼロではないので不可欠でない手術で寿命が10年縮まっていた可能性があったのです。また、死亡率など手術成績の評価も難しいです。なぜならほぼ例外なく、必要不可欠な手術の方がそうでない手術より難しいからです。

様々な動機付けに惑わされずに手術の適応を厳格に守るのは名医の最低条件ではないでしょうか?」』

 

こういう先生に出会えたら幸せだと思います。

それにしても、良い病院と良い先生に出会えるかどうかで結果はかなり違いますね。

勉強になりました。