初出勤の数日前に働いているホステスさんには挨拶を済ませていました。
中には何故、私(筆者)がママに?
何故、私(働いているホステス)がママになれないの?
等、そう思っているホステスさんは顔の表情で私には、わかりました。
ススキノは女性達の戦いの場。
私は自ら選んでママになったのでは無く引き抜かれてママになったのですから何を言われても気にしないで堂々としていようと心に誓いました。
売り上げが物を言う世界だから売り上げでトップに立つ事だけ考えていました。
沢山の胡蝶蘭の鉢植が店内をより一層華やかにしてくれて、その中で初日は無事に終わりました。
陰で何を言われても売り上げを上げれば認めて貰えると思いました。
アルコールの飲めない私には黒服が
「ママドリンク」
と言って小さくて細いバカラのリキュールグラス(イメージはシャンパングラスを小さくした感じのグラスです)に日替わりで、はちみつレモンやスポーツドリンク、午後の紅茶を入れてくれました。
お客様が
「ママもどうぞ」
と飲み物をを勧めて下さると黒服が
「ママドリンク」
を、さっと持って来てくれます。
中身は絶対にジュースに見えない色の物を選んでくれました。
誰も私が何を飲んでいるのか、わからないのです。
「ママは何を飲んでいるの?」
何て野暮な質問をするお客様は誰もいませんでした。
その値段は小さなグラス一杯で2000円でした。
今、振り返ると
「何て高かったのかしら」
と可笑しくて笑ってしまいます。
バブルの時代、高級クラブは繁盛しました。
ナンバー1とナンバー2の戦いは表では笑顔でしたが裏では熾烈な戦いでした。
店内では笑顔でも一度お店を出ると、お互いに
「ふん!」
と言う感じです。
私は毎日、全席にご挨拶しながらまわり、ボトルが後2センチで空く様な、お席の時はアルコールが飲めなくても
「お客様と同じ物を頂きます」
と言ってウイスキーの水割りを作りボトルを空にしてニューボトルを入れて頂きました。
そうする事で引き受け(担当)のホステスさんの売り上げになるからです。
しかし、空気の読めないホステスが付くと、もう少しでボトルが空くのに
「私はビールを頂きます」
と言います。
そんな時は私はテーブルの下で、そのホステスの足を思い切り蹴って気付かせました。
(ボトルを空けて!気付いて!と)
今、思い出すと私も若かったので出来た事です。
そのクラブは美人揃いでした。
お客様は企業のトップからヤクザの親分まで多種多様でした。
私は普段は無口で人見知りの性格です。
ただ、お仕事になると、その性格が変わり言葉巧みにお客様と会話が出来る様になります。
だから帰宅すると凄く疲れが出て着物を脱ぎ捨ててバタンキューの日々でした。
そして、ある日の営業時間中に事件が起きました。
−話は続きます−