−ネット参照−


ススキノを歩いていると黒いスーツを着た男性に遭遇する時はありませんか?

葬儀帰りの喪服では、ありません。

いわゆる黒服と呼ばれる夜の店で働く男性スタッフです。


特にクラブは黒服で決まると言っても過言ではありません。

黒服の腕次第で、そのクラブが一流にも二流にもなる大切な存在なのです。


黒服の仕事は数え切れない程あります。


ホステスさんのスカウトは勿論

売上管理

同伴管理

ヘルプ管理

出勤管理

体調管理

ホステスさんの不平不満を聞く

ホステスさんの働く意欲を上げる。

ママの機嫌が悪くならない様に仕事をする。

テーブルセッティングから掃除まで。

何から何まで黒服には、やらなければならない仕事が山積みです。


お店が開店すると

どのお席にどのホステスさんを付けるかを瞬時に判断する。

来店された、お客様の好みの女性を見極める難しい仕事です。



「お願いします」

とお席から声がかかると直にお席に向かい対応する。


忙しい時は

「お願いします」

の声が店内に溢れて

「お願いします」

の嵐になります。

そんな時でも決して焦った顔や困った態度を見せずスマートに仕事をこなす。


時には、お席に付いて、もう少しで空くボトルのお酒を頂き空にして引受けのホステスさんの売上げに貢献する。


ママの言う事には絶対服従です。自身の感情は全て殺さなければ務まらないのです。


気が付く

気が効く

のは当たり前です。

目は頭の後ろにも付いているかの様に振る舞い仕事をこなします。


私が勤めていたクラブには部長の役職を持つ椿(つばき)さん、主任の役職を持つ山本さん、と、もう一人いました。

ボーイさんは上地(かみち)君。


入店した日からボーイの上地君が手取り足取り教えてくれました。

優しくて時には昼間の仕事で肩がパンパンに凝っている私の肩を更衣室で揉んでくれました。


ママ始め他のホステスさんやスタッフさんは私の事を普段は

美鈴ちゃんと呼んでくれましたがボーイの上地君だけは美鈴さんと呼んでくれました。


ママには黒服しか知らない合図がありました。

ママが座っているお席を抜けたい時、ママは結った髪に飾っている、かんざしに手を当てます。


それを見ていた黒服が直にママの側に寄り

「ママ、お電話です」

と、これはお客様にも聞こえる様に話します。

普段は耳元でのヒソヒソ会話ですが、この時は違いました。


ママは黒服から聞くと、少し間を開けてから

「〇〇様、少し失礼します」

と言いお席を離れてレジ兼クロークがある小部屋に移動します。


何故、私が知ったかと言うと、私は何から何まで覚えようと必死でしたから、いつも黒服が

「ママ、お電話です」

と言いに来る前にママが、頭のかんざしを触るのを見ていたからです。


最初は気付きませんでしたが、これは合図なんだわ、とわかったのは働いて2ヶ月が過ぎた頃でした。


ママは自分から席を立ちませんでした。

例えば、お客様がトイレに行った時くらいしか、お席を離れませんでした。

ママの流儀なのだと思います。


黒服は、どんなに忙しくても

ママの合図を見逃す訳にはいきません。


一度、ママの合図を見逃した黒服がお店が終わってから、たんまりママに叱られていました。


「何回かんざしを触ったと思ってるの!」


仕事が終わるとボトルの管理。

テーブルの上の片付け。

おしぼりの発注。

等など。


クラブでは女性が花形ですから黒服は黒子に徹します。


でも黒服がいなければホステスさんだけではクラブは開けません。


お互いに共存の世界です。


私は口数が少く、ヘルプに呼ばれてもお客様に気配りをして、そつなく、お仕事をこなしていました。

それはヤクザの父の躾のお陰です。

母が父に気を遣い接していたのを小さい時から見て育っていたので気を遣う事は自然と出来ました。

出しゃばらず、言われる前に気付き対応する。

そんな私の姿が少しずつホステスさん達に認められて必ずヘルプに付けて貰える様になりました。


呼ばれなければ、待機する席で一日を過ごすホステスさんもいました。


黒服さんも私が昼間、働いている事を知っていて夜の11時30分を過ぎても、お席に座っていると

「美鈴さん、お願いします」

と私を呼び出して

「お疲れ様、又、明日ね」

と私を帰してくれました。



黒服さんの中にはストレスから、お酒に走り酒乱になる人もいたそうです。

一人、自殺した人がいました。

理由は不明です。


ボーイの上地君は、私がお店を辞めた後、何かの犯罪で逮捕されたらしいてすが、私には信じられませんでした。


そんな話を聞いた直後に上地君から電話が来ました。

「美鈴さん、お元気ですか?少し会えませんか?」


私は住んでいるマンションの向かいにある喫茶店で上地君と会いました。

上地君は私が働いていた時と変わらずに優しい物腰でした。

彼は自分から罪を犯した話を私にしました。

私は敢えて詳しくは聞かずに、働いていた時は良くしてもらい、ありがとうと話しました。


上地君の目には少し涙が見えました。


今夜もススキノでは大勢の黒服さんがホステスさんを輝かせる為に汗を流して働く姿が目に浮かびます。


次は黒服の部長、椿さんの話を綴ります。


−話は続きます−