函館刑務所の彼から手紙は何通も来ました。
急な用事の時は彼の弁護士から連絡が来た時もありました。
でも私の気持ちは、もう友達だからと冷めていました。
そして彼から、ある人に会って欲しいと手紙が届き。
その手紙が届いてから数日後に
S君から電話が来ました。
断れない性格の私は、S君に会う事にしました。
場所はススキノラフィラ(当時は松坂屋)地下の喫茶店。
約束の時間に待ち合わせの喫茶店に入りました。
お互い顔は知らない二人です。
当時の私は、ある女優さんに似ていると言われていて
S君も、その話を彼から聞いていたらしく喫茶店に入ると直に私を見つけて挨拶しながら入口まで来ました。
痩せてヒョロっとした青年でした。
罪名は敢えて聞きませんでした。
S君は函館刑務所内で差別扱いを受けていた彼の様子を私に話して聞かせてくれました。
そして出所する時に
何か困った事があれば私を訪ねるか、連絡する様にと言われたそうです。
初めて会ったS君は身分を証明する為に釈放後、行く宛の無い人が収容される施設の住所が書かれている証明書や運転免許証を私に見せて
「怪しい者ではありません。 〇〇さんに言われて挨拶したくて電話させて頂きました」
と
丁寧に礼儀正しく話していました。
私は、そのS君との出会いが今の今まで続くとは思いもせず
社交辞令的に会えば義理は果たせると思っていました。
S君に会ったのも2月の寒い冬の日でした。
S君は施設で充てがわれたと思われる夏靴に薄いジャンバー姿でした。
何故か妙に私には、その姿が哀れに見えて松坂屋の上にある男子衣料品売り場に誘いました。
先ずは冬靴を選んでもらい買いました。
次にジャンバーです。
見るからに寒そうな薄いジャンバー。
ダウンがたっぷり入った暖かなジャンバーを買いました。
S君は凄く恐縮していましたが、新しい冬靴と暖かなジャンパーを身に纏い凄く嬉しそうな笑顔になりました。
人懐っこい性格に
愛らしい笑顔。
私が、その日に出来る事は
させて頂きS君と別れました。
振り向くとS君は、寒い風が流れる中
ずっと私を見送っていました。
そしてS君との長い付き合いが始まりました。
−話は続きます−