父が先に帰りホテルの珈琲ラウンジに一人残されて。
タクシーで急いで帰りました。
たまたま女性は女の子を連れて買い物に出ていて留守でした。
私は母に父との会話の全てを急いで話しました。
母は
「〇〇わかったわ。後はお母さんが話すから貴女は黙っていなさい」
と。
安堵した直後、何も知らない女性と小さな女の子は機嫌良く帰って来ました。
私は何も無かった様に、母親に買ってもらった新しい、おもちゃで女の子と遊んでいました。
母は化粧をして仕事に行く支度をしている彼女を居間に呼び
「実は、〇〇を探しているのだけど札幌にはいないのよ。貴女が来てから、もう1ヶ月も探しているのだけど居場所が、わからないの」
と優しい口調で話し始めました。
全部、嘘です。
私から話を聞いた母が短い時間で考えた作り話です。
女性は母の目を、じっと見ながら話を聞いていました。
「これ以上、私も探す術がないのよ」
「このまま、ここに居ても〇〇には会えないわ」
と。
母は決して我が家から出て行ってとは言いませんでした。
同じ女として小さな女の子を抱えて私の父を探し、夜は風俗で働く彼女が哀れに思ったのでしょう。
彼女の目から涙が溢れました。
声は出さずに涙だけ流れていた横顔を私は忘れる事が出来ません。
何も事情を知らない小さな女の子は、おもちゃで無邪気に遊んでいます。
「姐さん。私は〇〇に捨てられたのでしょうか?」
その問いに母は
「元の住まいに帰れば連絡が来るかもしれないわよ」
と答えました。
更に母は
「私は既に〇〇とは離婚した身。本来なら貴女の面倒をみる筋は無いのよ。ただ小さな女の子が途方に暮れるのが可哀想だから手を差し伸べたのよ」
淡々と話す母に彼女は
「姐さんの言う通りです。甘えた私が間違いでした。ただ、ここに来れば〇〇に会える、その思いで長く居てしまいました」
彼女は、せっかく化粧した顔から涙でアイシャドウやマスカラが流れ落ちてしまい、痩せた細い体から全ての力が抜けた様に見えました。
小さな女の子は自分の母親が泣き崩れる姿を見て
「お母ちゃん、どうしたん?」
と泣き崩れた母親の頭を小さな手で、なぜていました。
その姿を見ていた私が辛くなり泣きそうになりました。
パパのせいで一人の女性が悲しんでいる!
許せない!
二人の間に何があったのかは知りませんし、知りたくもありませんが女を泣かせるのは許せない気持で一杯になりました。
その夜、化粧をし直してから彼女はススキノの風俗店に働きに行きました。
どんなに辛かったか。
今なら理解できます。
それから2日後に彼女は小さな女の子を連れて関西に戻りました。
我が家を出る時
彼女は
「姐さん、大変お世話になりました。ありがとうございました」
と頭を下げて我が家の玄関から出て行ったそうです。
母は女の子に
「又、遊びにおいで」
と言うと
小さな女の子は
「おおきに!おばちゃん、バイバイ!」
と元気一杯に手を振っていたそうです。
後から母に聞きました。
「〇〇、飛行機代を封筒に入れて彼女のスーツケースに入れておいたの」
と。
「私が出来るパパの罪滅ぼしだから」
とも話していました。
我が家の恒例行事
お正月の書き初めを思い出していました。
腹を立てずに横にして
己は小さく
心は丸く
気は長く
父は真逆を生きていました。
私も真逆の考えを持ちました。
彼女からは、その後、一切の連絡はありませんでした。
今、どうしているのかしら。
小さな女の子は幸せに結婚したかしら。
とブログを書きながら
ふと、思いました。
−話は続きます−