傘がない
傘がない「都会では 自殺する若者が増えている」今朝の新聞の片隅に、そう書かれていた。――だけども、問題は今日の雨だ。傘がない。行かなくちゃ、君に逢いに行かなくちゃ君の町に行かなくちゃ、雨に濡れて――冷たい雨が、今日は心に浸みる。君のこと以外は、何も考えられなくなる。なあ、それは良いことだろう?テレビでは、我が国の将来の問題について、誰かが深刻な顔をして、喋っていた。それを傍目で見ながら、僕は昨夜突然届いた1通のメールについて考えていた――。「貴方は私のことを、1度も見てくれなかった。」「私はいつも、独りだった。」行かなくちゃ、君に逢いに行かなくちゃ君の町に行かなくちゃ、雨に濡れて――仲睦まじい恋人。周囲には、そう見られていたはずだ。僕に落ち度はあっただろうか。愛してない?僕はしばし逡巡する。そのとき突然、携帯のベルが鳴った――。冷たい雨が、僕の目の中に降る。君のこと以外は、何も見えなくなる。なあ、それは良いことだろう?行かなくちゃ、君に逢いに行かなくちゃ君の家に行かなくちゃ、雨の中を――今日の天気予報は晴天だったはずだ。なのに何故、僕の頬には雨が流れているのだろう。どうして、視界がこんなにも霞むのだろう。行かなくちゃ。君に逢いに行かなくちゃ。雨に濡れて行かなくちゃ。ああ、傘がない――。