つばさものがたり 著者:雫井脩介 出版社:小学館 出版年: 2013年1月25日 評価:☆☆☆☆ 完了日:2015年3月31日 ラベル:現代
「てんしはね、にんげんがだいすきなんだよ」
君川代二郎・道恵夫妻に、もうすぐ男の子が生まれる予定だ。
代二郎の妹・小麦は、東京の有名ケーキ店でパティシエの仕事をしている。
亡き父との約束である地元でケーキ屋を開くという夢を叶えるために―――。
代二郎の子どもの名前の案がな・・・。騎士(ないと)とか亜歩呂(あぽろ)とかって・・・(汗)
やめろ、おいやめろ。そんなキラキラネームつけるんじゃねぇよ。
生まれた子どもの名前は、叶夢(かなむ)と名付けられた。
やっぱりキラキラネームじゃねーか!
子どもが成長するに従い、他の子どもとは異なる点が見て取れるようになった。少し気になる程度に考えていたものの、通っている幼稚園の先生からこんな話を聞かされる。
「もしかしたら、叶夢くんはアスペルガー症候群とかADHDなのかもしれない」
一方、小麦は3年前に手術した乳がんが再発・移転してしまう。そして、薬の副作用から食べ物の味が分からなくなってしまった。これはパティシエとしては致命的だ。
彼女は乳がんが再発したことを職場の誰にも言えずにいた。
叶夢も小麦も、どっちも重たいものを抱えすぎぃぃ!!
病気のために夢から離脱せざるを得なくなった小麦の姿に、心がぎゅうっとなる。ツラい。
病気のことを誰にも話さずにいるのと、素直に話していた場合とで、何か変わっていただろうか。どちらにしろ、辞めざるを得ない状況になっていたかもしれない。
小麦、あんたムリしすぎだよぉ(泣)
なぜそこまでして隠そうとするのか。手負いの野生動物が必死で平気なふりしているような感じがする。このままだと、気づいた時にはもう手遅れな状態になってしまうよ。
叶夢のことについて、あれこれと考えることに疲れたのか、道恵は正しい判断が下せない以上、必要以上に心配することはやめることにした。
そのうち、叶夢はしきりに天使の絵を描くようになる。彼は「天使のレイはここにいる」と言い始めるのだった。
一度は諦めた小麦だったが、奮起して地元に帰った彼女はケーキ屋をオープンする。父との夢の約束を果たすのだ。自分の命が尽きるまで。
・・・もうやめて!小麦のライフはもうゼロよ!!
だから、なんであんた、そんなに頑張っちゃうんだよぉ。
もうどうにも立ち行かなくなって、くずおれてしまった場面で泣いた。小麦のライフがもうゼロなら、自分のライフももうゼロだよ。
挫折することの辛さと悔しさに経験がある者なら、この時の彼女の気持ちが痛いほど分かるはずだ。
叶夢が天使のレイの話をするようになってから、彼は見る見るうちに変わっていった。成長と言ってもいい。
それまで、どんなに誘っても、外で遊びたがらない運動が苦手で陰気な子どもだった叶夢。それが、レイに触発されるように、自身も頑張って何かに挑戦していく子どもになっていった。
周囲の大人たちは、そんな彼の話にきちんと調子を合わせてくれる。最初はおかしなことを言いだす叶夢にどう接してやればいいか分からなった代二郎も、いつしか彼の世界観を大切にしてくれるようになっていた。
バカバカしいと言って、一蹴することは簡単だけどね。大人たちは優しいなぁ。みんな優しすぎて涙が出そうになる。
うわぁぁん!!
最後の最後まで泣かせに来やがる。もう涙と鼻水で文字が読めないよぉ。
みんなの希望の星として育てられ、短い人生を一生懸命に生き、輝きを残していった彼女に敬意を表す。
終盤の天使のレイの存在がぶわっと物語を盛り上げる。叶夢の創作話には留まらない。本当に天使はいるのだと思わせる展開に『フランダースの犬』を思い出した(全然世代でも何でもないけど)。
(BGM 岡村孝子「夢をあきらめないで」)