ファンタズマゴーリア 著者:岡崎祥久 出版社:講談社 出版年:2014年9月30日 完了日:2015年3月21日 評価:☆☆☆☆ ラベル:SF+ファンタジー

 

 

 

 

 

 

 

人間が考える常識や当たり前なんていう観念なんか他の世界の者から見たら通用しないってことさ

 

 

 

 

西川大介氏のかわいいイラストに惹かれて手に取った。

かわいいけれど、中身は自分が苦手とするSF。ちんぷんかんぷんにならないことを願って読む。

 

 

 

【目次】

第Ⅰ部 ミラーワールド

第Ⅱ部 アタラクシア

第Ⅲ部 ニューワールド

 

 

 

第Ⅰ部

72人いるミラーワールド旧世代の最後の生き残りだという少年・マルテ。彼は、ピーナッツを使って時間を折りたためる特技を持っている。

 

 

 

ある日、マルテは人間世界を研究しているヨアンナにけしかけられて、研究対象との接触を図るため、人間世界に行くことに。

 

対象者であるリエカと出会ったのを機に、マルテの身にミラーワールドでの通常とは異なることが起きるようになる。

 

ミラーワールドの住人は、人間世界のモノには触れることができない。それなのに、モノを持ててしまったのだ。リエカと別れてマルテはミラーワールドに戻ろうとしたが、それができない。そして、そこからいきなり50年後の世界に飛ばされてしまった。

 

一体、なにが起きたんだ!?

 

 

 

人間世界以外の登場人物たちのセリフが哲学的で多分に謎に満ちている。どういうことだろう、と頭をひねる。

 

なにせ、人間世界の常識なんか通用しない世界に彼らは住んでいるものだから、いかに我々人間がそれに捉われて生活しているかを思い知らされる。

 

 

 

マルテは少年の姿をしているけれど、そんなことはさほど重要ではない。だって、場面によってマルタという少女の姿に変えることも容易いのだから(以下、便宜上マルテと表記)。他の登場人物たちも好き勝手に様々な動物の姿に形を変えるし。

 

マルテには、旧世代として何らかの過去があるらしいが、当人は全然覚えていない様子。それどころか「あと1週間で15歳になる少年」の姿を何百年も繰り返している。もしかして、その度に記憶がリセットされてる?

 

 

 

 

第Ⅱ部

何者かの手によって地中世界アタラクシアへと連れてこられたマルテ。いつの間にか少女の姿になってるし。

 

そこには、同じように連れてこられたミラーワールドの旧世代の者たちがいた。みんな何者かに殺されて残り8人になってしまったと言う。マルテを入れて9人。

 

 

彼らは戦うことを知らない。殺されても反撃することすらしない。そんななか、マルテはかつて”悲しい目をした猿”のイススリウスに剣を習っていたため、襲撃者がきた時にそいつを撃退することに成功する。

 

しかし、そのせいでマルテは他の旧世代とは違うという線引きがなされてしまうのだけれど。ちょっと悲しい。

 

 

地中世界へやって来たばかりの頃のマルテは、見た目は少女でも中身はバリバリの少年でちぐはぐした感じだったのだが、地中世界での冒険の間に、いつの間にか考え方も喋り方も少女のそれになっているのだ。自然と変わっていっていることに読み終わった後に振り返ってみてそのことに気づく。

 

 

 

第Ⅲ部

地中世界に降りてきた巨大な蝉。その分身である青い服を着た少年バンベロー。彼は地上世界(人間世界)に行きたいと言い出したことから、マルテたち旧世代はそのお供をすることに。

 

人間世界に来たのを機に、彼らはミラーワールドへの帰り方を思い出す。ミラーワールドに戻って来た途端、マルテ以外のみんなは地中世界および人間世界での出来事をすっかり忘れてしまっていた。

 

あれは一体、どういうことだったのだろうか?

 

 

 

何が始まりなんか分からない。こうやって何度も繰り返されている。マルテだけ覚えていることに意味はあるのか?いや、そもそもこの物語自体に意味はあるのか?

 

時々、人生における核心を突いていると思う。

 

生きるとは何か、死ぬとは何か。

 

そう考えればマルテは生と死の象徴である。まさに「火の鳥」だ。

 

 

 

マルテとリエカが別れた後、50年後の世界へと飛ぶ。再びリエカと相まみえたマルテ。老婆になった彼女が語る言葉に、50年もの重みを感じる。

 

彼女がどんな人生を経てきたのか。辛いことも悲しいことも苦しいことも。それら全てがリエカの横顔に凝縮されていると思うのだ。

 

もちろん、悪いことばかりではないだろうが。喜びや楽しいことなんて長い人生のなかでは、パッと点滅する光のようなものに過ぎない。人生は苦行である。

 

 

 

人間が考える常識や当たり前なんていう観念は、あっけなく覆される。そして、自分は「そんなの常識だろ」とか「当たり前だろ!」と声高に叫ぶ奴の言うことなんか信じない。

 

だいたい、時代やその人個人の考え方、生育環境によって当たり前とするものが違うのを見るとなおさらそう思う。よって、常識や当たり前なんてものはあって無いようなものだ。

 

マルテが見てきた世界を垣間見たら、そのことがよく分かる。

 

 

 

 

全体を通して言いたいことは、人生は一度きりって言うけれど、その一度きりで全てを理解しようとすることなんて到底できやしないよねっていうこと。

初めはちんぷんかんぷんでも、ストーリーの肝となるセリフを何度もなぞらえていると、だんだんと分かってきた(気がする)。

 

本書は、「一回読んでハイおしまい」にするにはもったいない、何度も読んでこそ価値や意味の分かるスルメ本だ。