今日、きみと息をする 著者:武田綾乃 出版社:宝島社 出版年:2013年5月24日 完了日:2018年3月18日 評価:☆☆☆ ラベル:ラブストーリー+青春 

 

 

好きな人には好きな人がいる。

自分ではない、他の誰か――――――。

 

第8回日本ラブストーリー大賞、最終選考候補作品。

アニメ化もされた『響け!ユーフォニアム』の作者のデビュー作。


『ユーフォニアム』もそうだが、この作者の特徴は何と言っても人間関係の複雑さ、微妙な空気の描き方の上手さにある。ヒリヒリと凍てつくような、どうしようもない切なさともどかしさ。

なにせ、デビュー当時の年齢が20歳だというのだから、ちょっと前まで高校生だったからこそ、ここまでリアルに高校生の心情を描き出すことが出来るのだろう。

 


宮澤けいと(男)は田村夏美が好き
田村夏美(女)は沖泰人が好き
沖泰人(男)は宮澤けいとが好き



複雑な三角関係。

彼らは全員高校1年生で、廃部寸前だった美術部に所属している。夏美と沖は同じ中学出身で、けいとだけが県外から家庭の事情で引っ越してきた。

3人とも好きな人の目が自分に向いていないことを十分に知っている。



夏美の沖に向ける感情というか、その思いはそれはちょっとどうなんだろうと思ってしまう。自分が理想とする形が沖であって、そこからちょっとでも外れようとすると失望するのだ。

沖の元カノであり、夏美の友達でもある里沙子。美男美女カップルはまさに夏美の理想でもあった。それなのに2人は別れ、別々の道を歩んでいる。変わっていく沖泰人。それに対して、いつまでも過去にこだわり前に進めないでいる私(夏美)は何なんだろう・・・。

夏美は理想を沖に当てはめて見ているだけだ。だから、現実の彼の姿を見ようとしていない。彼の心の内を理解しようとしていない。恋に恋している状態なのではないか。



一方、けいとは彼らとは高校に入ってからの仲なので、夏美ほどには沖に対しての思い込みは少ない。あまりバイアスがかかっていない目で見ている。だから、時々ではあるがズバリと物事を言い当てることが出来るのだろう。



じゃあ、当人である沖自身はどうなのか。沖と里沙子は全然理想のカップルではなかった。沖が思うには、同士としてお互いを利用していただけ。決して、好きになれなかった相手でしかなかったのだ。

人を好きになれない沖。それには、彼の過去が関係していた。
 

 

夏美以外の2人は、複雑な家庭の事情を抱えている。そこから、様々な関係が垣間見える。けいとと姉の共依存関係。沖と父親の父子と言えるかどうかすら怪しい微妙な関係。
 

 


あぁ、苦しい。息をするのはこんなにも苦しい。
 

この膠着状態を打破するため、夏美は沖に告白しようと試みるのだが・・・・。

 


結末は、案外とあっさりとした終わり方だったなという印象。