さらば、わが愛/覇王別姫 制作年:1993年 制作:香港&中国 評価:☆☆☆☆ 完了日:2017年3月8日 ラベル:歴史富士山







人にはみな、運命がある
運命には逆らうな






 中国激動の時代に生きた、京劇俳優の程蝶衣と段小樓。女形の蝶衣は段小樓を愛していたが、彼は娼婦と結婚してしまう…。


戦争が、京劇という芸術の世界も侵しつつあった時代を背景に描かれる、ふたりの男たちの愛憎のドラマ。





   前半は、京劇の学校で厳しい訓練に耐える主人公の少年ふたりの友情にスポットをあて、後半は時代の波に飲まれながらも、愛と演劇を貫く男たちのストーリーがつづられる。


段小樓を愛しながらも、その愛を得ることができず、苦悩する程蝶衣を演じるレスリー・チャンの艶やかな美しさが圧倒的な存在感を見せる。


監督はチェン・カイコー。カンヌ映画祭パルム・ドール賞受賞作。





音楽の教科書だったか、歴史の教科書だったか忘れたが、京劇『覇王別姫』の写真が載っておりましてな、そのド派手なメイクが印象に残っている。ちなみに授業で取り上げられたことはひとつも無い。


この映画、3時間近くもあるぞ。京劇を舞台にした栄枯盛衰を描く。





1930年代。遊廓の女を母に持つ少年(7、8歳頃?)。大きくなってきたことで、これ以上遊廓に置いてはおけないとして、京劇の劇団に押し付けられた。


京劇の俳優になるための訓練は非常に厳しく、文字通り血がにじむほどの努力をしなければならない。スパルタどころか、こりゃ虐待と捉えられても仕方ないですな。





劇団に預けられた少年は、小豆というあだ名を名付けられた。


劇団一やんちゃな子(あだ名は石頭)が、何かと小豆の面倒を見てくれるように。





辛く厳しい稽古の日々に嫌気がさしていた小豆は、ある日、仲間の少年と共に劇団を脱け出し、京劇を見に行く。そこで華々しく活躍し、喝采を浴びている俳優たちを見た二人の少年の意識が変わる。


自分もあのようになりたい!と思うようになったのだ。


劇団に戻るものの、二人には厳しい懲罰が待ち受けていた。





少年はやがて大人へ。小豆と石頭は『覇王別姫』の主役二人として選ばれる。小豆は程蝶衣を、石頭は段小僂の名で京劇に出演するようになる。


いつしか蝶衣と小僂は京劇界のスターとなっていた。


蝶衣が女形として虞姫を、小僂が大王を演じている。もう、蝶衣が私生活においても女性なんだよね。何か物を持つときでも小指が立ってるし。本当に心から女性になりきってるよ。


『覇王別姫』についての簡単な概要も、本作品を観れば知識を得られる。





小僂は女郎屋で、男たちに絡まれて困っている様子の女・菊仙を助ける。嘘も方便なのか、そのままプロポーズしちゃったよ、小僂。


菊仙の後ろでニヤニヤ笑っている男が劇団ひとりとオードリーの春日を足して二で割ったような顔をしている(笑)





菊仙を妻に迎えることを知った蝶衣は、これに怒りを覚える。演劇を続けていく上でも小僂には一生、自分の傍にいてもらいたいのだ。それなのに、よりにもよって娼婦なんぞを傍におくだなんて。


どうかしてるぜ!ヒーハー!!
どうかしてるのは、蝶衣も同じなんだけどな。舞台と私生活はまた別。それなのに、彼は演劇と現実との区別がついてないようなところがある。


そういう点ではホモくさい。





蝶衣と決別するかのように小僂が去っていく場面。引き連れて歩く菊仙の顔が小憎たらしい。結婚もまだしてないのに、もう奥さん気取りかよ。


この菊仙という女、今後ことあるごとにしゃしゃり出てくる。気が強いというか、鼻っ柱が強いというか。何様のつもりだろうか。蝶衣にとっては目の上のたんこぶ的存在。


決別したことで二人は舞台上でも共演しなくなり、蝶衣も小僂も堕落していく。それでも、時が経てばまた共演してるんだけどね。やはり離れられない、引き離せない二人なのだ。


大の男になっても大師匠の前では縮こまってしまう蝶衣と小僂。いまだに怖いようだ。





時は移ろう。時代は変わる。


第二次世界大戦を経て、1966年、文化大革命が起きる。


京劇の大パトロンが血祭りに挙げられ、蝶衣たち俳優も摘発されてしまう。


知識が乏しいからよく分かっていない。なぜ、京劇の俳優たちが公衆の面前に引っ張り出されるのだろうか?


あー、もうこれは小僂は最低な人間だとする映画でOK?
自分が助かりたい一心で他人を暴露するだなんて。最低だな、こいつ。


てっきり、全員虐殺されるのかと思っていたのだが、そんなことなかったな。一体なんだったんだ、あの断罪祭りは?





京劇の一流俳優になるための苦しく厳しい訓練。封健的で人権なんざ無視したやり方で育った蝶衣世代と彼が助けた赤ん坊だった子が成長した世代とが対照的に描かれている。


お前、少年だった頃の心意気はどこへやったよ?





京劇も日本の歌舞伎などの芸能も、昔から続く伝統芸能としての姿は相通じるものがあるなと感じた。