猫鳴り 著者:沼田まほかる 出版社:双葉社 出版年:2010年9月16日 評価:☆☆☆ 完了日:2015年2月19日 ラベル:現代
『アミダサマ』でまほかる旋風を巻き起こした沼田まほかる作品の登場だよ。それにしても、「まほかる」ってすごいペンネームだな。なお、『アミダサマ』は未読。
40歳にしてようやく第1子を身ごもった信枝。だが、小さな命は6か月目に流れ去ってしまう。
以来、希望を奪い去られてしまった中年夫婦の間には重苦しい空気が漂っていた。
そんな中、信枝は仔猫の鳴き声を家の庭から聞きつける。そのまま放っておいたが、ずっと鳴いているので近所の畑に捨てに行った。
だめだ!産まれたての仔猫に対して自分だったらそんなこと絶対できない。ましてや「そのうち死ぬだろう」と死を願ってるだなんて。そりゃ、流産して絶望の淵にいる信枝にしてみれば、か弱い声で鳴いている仔猫と自分の子供が重なって見えるのかもしれないが、それにしても残酷だ。
だが、何度捨てに行っても仔猫はいつの間にか信枝の家に戻って来るのだった。まるでそこが自分の家であるかのように。とうとう仔猫を飼うことになった。やったね☆粘り勝ちだ。
もう一人の主人公。13歳の少年・行雄。数週間前から学校へ行っていない。父子家庭で子供に関心がないのか、父親は何も言わない。
少年の心のなかにはどす黒い感情が渦巻いていた。幼児を殺してやりたいという危険極まりない感情が。行雄には、どうしようもないほどに抑えきれない破壊衝動が心のうちにあるのだ。
いきがってはいるが、そこはやはり子供。すべて頭のなかで考えているだけで、現実的な場面に遭遇するとどうしていいか分からず、パニックになってしまう所がある。
よくある、よくある。頭のなかではスムーズに物事が進んでいく、上手くいくシミュレーションができてるのに、実際やってみると全然できないってことが。
親子の交流なんていうハートフルな場面が普段ない行雄たち。そんな時に垣間見えた父親の日常での姿に、生きるのってキツイなぁーと思わされる。そしてこの父親、親としての教育観念というのが全然ないよな。めちゃくちゃ危ない。
第3章。主人公は信枝の夫・藤治に移る。
猫の良さが全面的に分かる文章。そうそう、猫は毛並みが柔らかくて、その下にある筋肉がしなやかで温かくて、ずっしりと重くて・・・。あぁん、猫に触りたいよー!思いっきりワシャワシャしたいよー!!猫とつがなることの心地よさは何ものにも代えがたい。
中年夫婦に引き取られ、モンと付けられた猫。あれから20年が経った。避けられないのが老いである。地域のボス猫を気取っていたモンも、老いには勝てない。一日、また一日と死に近づいていくモンの姿を見るのは辛い。
物語はただただ静かに、海の凪のように進んでいく。モンは老いた。藤治も老いた。この穏やかな日々がこのまま続いていけばいいのに・・・。
まほかるという筆名とも相まって、もっとエキセントリックな文章を書く作家だと勝手に思い込んでいた。そんなこと無かったよ!
20年も生きれば、猫にとっては万々歳だ。そうは分かっていても、いざ死が目の前に迫ってくると飼い主としてはどうしてやるのが一番いいのか悩んでしまう。治療するのか、自然に任せるのが、それとも・・・安楽死か。どれにしても、人間のエゴでしかないんだけどね。
解説は豊崎由美(書評家)。解説者様が荒ぶってらっしゃる。
「信枝ぇぇぇーーーー!!!」
こんな解説初めて見た(笑)
信枝には裏切られますもんね。
でも、著者自身は動物が好きなんだろうな。でなきゃ、あんな凄味に迫る文章を書けるはずがない。