ライオットパーティーへようこそ 著者:水沢秋生 出版社:新潮社 出版年:2014722日 評価:☆☆☆ 完了日:2014930日 ラベル:青春目

 

 

 

 

 

 
 

 

「さあ、パーティーのはじまりだ」

 
 
 

 救いのない世界だ。一度つまづいてしまえば、這い上がるのは容易ではない。閉塞感漂うこんな世界なんか滅んでしまえばいい。

 

 

 

 

 

 

戸野宮 毬(19歳)は、ビルの屋上から飛び降りようとしていた。小さい頃からみんなには「デブ」だの「汚い」だのと罵倒され、母親の新しい恋人からは邪魔者扱いの目で見られていた。

 

もうここに毬の居場所なんかなかった。だから死のうとフェンスに手を掛けた時、毬は同世代くらいの知らない男の子から声を掛けられる。

 

 

「きみ、飛び降りるの?だったら、きみのその最期の瞬間を見ててあげる」

 

 

なにを言い出すんだ。そこは止めるべきだろう。

不思議な雰囲気を持つ男の子に毬はいつしか飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

毬は身の程というものを十分すぎるくらいに知っている。ずっとイジメられてきたことから、自分の言動ひとつで相手を不快にさせないか、嫌われたりしないか、そんなことばかりを考えながら生きている。だから、何も言えなくなってしまう。動けなくなってしまうのだ。

 

 

ゾッとする。彼の存在にゾッとする。これから何が起きるのか、どこへ向かおうとしているのか、それは分からないけれど、確実に何かが起きようとしている。その予感や不安。

 

 

 

 

 

自殺する勢いを削がれたような形になってしまった。男の子は毬をある場所へと連れていく。そこは廃墟と化したビル。中には、年齢も性別もバラバラな人々が集まっていた。ここは、行き場所をなくした人たちのための「避難所」だという。

 

やがて毬はこの廃墟ビルで生活をするようになる。

 

 

 

 

 

誰も知らないところで、何かが起きようとしている。少しずつ、だけど確実に。そのための布石が打たれていっている。

 

だから怖い。彼が怖い。彼の言葉が行く先々で人々の心に火を点ける。良い意味で、ではない。一見すると、なんでもない言葉のような気がするのに、彼の口から発せられると人に強く作用する。駆り立てていく。

 

 

果たして、彼は天使か――――。それとも悪魔か――――?

 

 

 

彼の名は人百合(ひとゆり)。想像を絶するような過去を持つ男の子。

 

 

 

 

 

 

人は孤独だ。「その哀しみや苦しみ、分かるよ」と口では言っていても、その実、なにも分かってはいないのだ。決して共有することはできない。

 

世界は終わらない。終わりなんかない。ずっとずっと続いていく。だから、だからこそ、たとえ共有することは出来なくとも、傍にいてあげることは出来る。見ていてあげることくらいなら出来るよ。

 

 

 

 

 

毬が電話で告白する場面。世界の混乱の中で真実を伝えるときがすごくドラマチックだ。情景描写・心理描写との巧みさがより一層それを際立たせる。あぁ、ドラマだ。ドラマを見ている。

 

抽象的だから読む人によっては、何を言ってるのか理解できないかもしれない。だが、同じく世界の混乱や暴動を描く『この空のまもり』よりも本作の方が、自分は何万倍も理解するし、共感する。

 
 
 
 
 
 

 

 

この本の装丁の裏面の演出が心憎い。粋なことをする。すごく余韻が残る。