木を植えた男 著者:ジャン・ジオノ 絵:フレデリック・バック 訳者:寺岡 襄(たかし) 出版社:あすなろ書房 出版年:1989年12月15日 評価:☆☆☆ 完了日:2015年5月15日 ラベル:その他
誰も知らない
その男が成した偉大なる功績を
登山家か旅人か分からぬが、ある男がフランス・プロヴァンス地方の山道を登っていた。
行く先に廃墟があり、そこら辺でテントを張ろうとした男。昨晩から水筒の水もなくなっていたこともあり水の在りかを探したが、見つからず仕舞い。
仕方なく男は水を求めて、さらに先の道を行くことにした。
するとどうだろう。そこに羊飼いの男がいた。
羊飼いは男に水を分け与え、さらに家にまで招待してくれた。
羊飼いは、あることをライフワークとしていた。それはこの辺り一帯の土地に木の実を植えること。
この辺は、人が生きるには厳しい環境で、羊飼いを残してほとんどの人が他所へ移ってしまったようだ。
絵本にしては文章量が多いので、ちょっとした小説、絵のついた小説を読んでいるような感じ。かといって、含みとか行間とかあまりないような文章の書き方。訳の問題か、原文の問題か判らないが。
木の実を植え、ここまで大きく木を育てるのには大変な苦労があったと書いてある割には、その苦労がなんなのか書いてないんだよね。さらっと流されている。いまいち、羊飼いの苦労が分からないまま。
時代は第一次世界大戦前から第二世界大戦が終わったその後を描いている。
旅人が訪れた当初のページは茶色や灰色で描かれており、ひどく寂しい印象を与える。だが、羊飼いが植えた木の実が育ち、豊かな木の枝を伸ばし始めた頃から、画面はパァっと色づき始める。
淡い色調の色とりどりの世界は、ルノアールの絵画を彷彿とさせる。
いつも強い風が吹きすさび、見渡すかぎり茶色の土が剥き出しになっている土地。このような荒廃した土地に暮らしていれば、どんな人間だって心が荒んでくる。
人々は不安に煽られ、人間関係もギクシャクし、終いには自殺に駆られる者も。
例えば、どんなに善良だと言われている学校(あるいは地域)でも、窓ガラスが1つでも割れているところがあれば、次から次へと窓ガラスを割られたり、壁に落書きされたりしてしまうらしい(犯罪心理学でなんて言うんだっけ?こういうの)。
ひとつのことがきっかけで人々の心は荒み、犯罪を誘発させてしまうのだ。
みどりだ。この土地にはみどりが足りない。
事態を重く見た羊飼いは、木を植えることを思いついたのかもしれない。
時々、羊飼いが整備した土地にお偉いさんが視察しにやって来る。ここら一帯の土地が緑豊かなのは、羊飼いの手によるものだとは知らずに。
木・林・森・・・。自然はまったくもって「自然」のままでは育生出来ない。人間の手によって適度に伐採してやることで太陽の光が射し込み、木々はより成長することができるのだ。
お偉いさんたちは、そのことを全然理解していない。これらの木々は、”自然発生的”に生まれたものだと思い込んでいる。
羊飼いは木を植える。来る日も来る日も、木を植える。何年も、何十年も。
旅人が出会った頃は初老だった彼も、今ではすっかり80歳近くにまでなっていた。
だが、誰も知らない。この地域一帯が、かつては禿げ茶けた土地だったということを。緑豊かになったのは、彼のおかげだということを。
我々は忘れてはいないだろうか。豊かさによる恩恵を享受できるのは、誰かのおかげ、なのかもしれないということを。
(2017年6月7日追記)
『ポケットモンスターXY&Z』に似たような話があったな。
木の種を植えていたのは、ロボットだったけど。