黒猫/モルグ街の殺人(光文社古典新訳文庫) 著者:エドガー・アラン・ポー 訳者:小川高義 出版社:光文社 出版年:2006年10月12日 評価:☆☆☆☆ 完了日:2014年7月26日 ラベル:ホラー&ミステリー
日本の推理小説、幻想・怪奇小説の第一人者、江戸川乱歩。著者は乱歩のペンネームの由来となったアメリカ人作家だよ。さらにそれを利用したのが『名探偵コナン』の江戸川コナンだけどね!
短編集
【収録作品】
黒猫
本能vs.理性 ―黒い猫について
アモンティリャードの樽
告げ口心臓
邪鬼
ウィリアム・ウィルソン
早すぎた埋葬
モルグ街の殺人
解説は訳者本人の小川高義。
「黒猫」
主人公である私の独白。自分の身に起きたことについて語られる。
子どもの頃から動物が大好きで、大人になっても様々なペットを飼っていた私。
だが、それも一変する。私は酒に溺れてしまったのだ。
それ以降、私の性質は変わってしまう。あんなに可愛がっていた黒猫を虐待した後、殺してしまう。良心の呵責に苛まれる私。
黒猫の呪いとか、そんな非科学的なものは信じない。そう口では言っているものの、心のどこかで黒猫を恐れている。
全ては空想の産物だ。ありもしないものに影を見出し、必要以上に怖がっている。思考能力が著しく発達した人間だからこそ、そういったものを見つけ出し、全然関係ないものにまで何らかの関係性を結び付けて意味づけようとしてしまうのだろう。
どうして彼はあんなことをしてしまったのか。そして、秘密を隠したがっている人間ほど、どうして言わずにはいられないのだろうか。余計なことを言わなければ完全犯罪。
黒猫だけに、黒と白の世界が見える。だが、最後にきてすべてが露見してしまった段階で、それまでの白黒の世界が一気に真っ赤に血塗られていく。
色の対比がすごい。本編では色について一切言及されていないが、世界観がそう見えさせているのだ。
「告げ口心臓」
「黒猫」と同じ匂いがする短編。
主人公の私は、老人の禿鷹のような眼を恐れていた。あの眼で見られると心臓がさぁーと冷えるような思いをするのだ。
そうだ、老人を殺してしまえばいい。そうすれば、あの眼ともおさらばだ。
そもそも、老人と主人公との関係は何だ?そのことは明示されていない。
老人の部屋に、夜中に侵入しようとして誤って物音を立ててしまう主人公。その音を聞きつけた老人は「誰だ!?」と誰何する。
主人公と老人が二人で暮らしているのならば、「誰だ!?」という言葉はふさわしくないように思える。「〇〇か?(主人公の名前)」と言うはず。
じゃあ主人公、お前はいったい誰なんだ・・・?
そう考えると、老人殺しもさることながら、別の方向性で恐怖がこみ上げてくる。
結局、人間は己がしたことから逃れられはしない運命なのだ。
「モルグ街の殺人」
ふとしたことがきっかけで、私はオーギュスト・C・デュパンなる人物と知り合った。ほどなくして私と彼は一緒に暮らし始める。
彼と暮らすなかで、私はデュパンの情報収集能力と分析能力の高さに驚かされていた。
彼のその高い能力を使って、不可能犯罪の解明に挑む!
理路整然と語られるデュパンの言葉にほぅと感心させられる。どんなに奇妙奇怪で空恐ろしいほどの殺人事件が起きようとも、彼の手にかかれば、犯人の行動原理、思考を読み取り、たちどころに明らかになるのだ。まさかね、というしかない。
これが推理小説が一般的になる半世紀も前に書かれたというのだから、著者はなんていう先見性なんだ。推理小説の発明者といっても過言ではない。
謎を解き明かし、真実を突きつけるときのデュパンの立ち振る舞いにゾクリとした。ハッとさせられる。かっけー。
事件解決後の後日談。そこで語られるデュパンの言葉もまたかっこいい。自分も底の浅い人間と言われないようにしたいものだ。