あつあつを召し上がれ 著者:小川糸 出版社:新潮社 出版年:201110月 評価:☆☆☆ 完了日:2014722日 ラベル:現代ビル

 
 
 
 
 
 
 

 

『食堂かたつむり』で静かなブームを起こした著者の作品。この著者は食べ物を題材にした作品が多いな。

 

 
 

 

「食べる」という行為は、単純に言えば、自分の命を生き長らえさせるためのものだ。これについて究極的に削ぎ落した考え方をするのは森博嗣先生だけど。でも、食べるってそれだけにとどまらないよね。

 

幼少期に食べていたものは、大人になっても強い影響力を及ぼす。誰と一緒に食べていたか、という思い出までも。そう考えれば、「幸せ」って実は食卓にあるのかもしれない。

 

 

 

短編集

【収録作品】

バーバのかき氷

親父のぶたばら飯

さよなら松茸

こーちゃんのおみそ汁

いとしのハートコロリット

ポルクの晩餐

季節はずれのきりたんぽ

 

 

 

食べることは、人間の無防備な瞬間をさらけ出す行為のひとつだと思うんだ。そのひとの人となりを如実に映し出す。食べ方ひとつ取ってみても。

 

 

会社のみんなでお疲れ様会をすることになった。その時見た、自分より2、3歳年下の女の子の食べ方が忘れられない。

 
 

 

彼女は箸を手で握りこむように持ち、皿を口まで持ってきて掻き込むように食べていたのだ。どの料理に対してもそのような食べ方をしていた。どうやら彼女は指を使って繊細に箸を動かす行為ができないらしい(手に支障があるというわけではない)。おいおいおい。マジかよ。

 

 

もし彼女に惚れている人間がいたとして、この姿を見たら、百年の恋も醒めるだろうなと思った。

 

 

 

 

「バーバのかき氷」

痴呆になってしまったバーバ。そのバーバのために、昔彼女がまだ元気だった頃にみんなで食べた思い出のかき氷を食べさせてやる。

ただそれだけのことなのに、なぜこんなにも泣けてくるのだろう。

 

スプーン一匙づつ、氷を運ぶ。かき氷の山とバーバの口元を往復するスプーン。それに対して「私」は何を思っているのだろうか。

 

もしパパがこの場にいたとしたら尋ねたいという質問に、なんとなくおかしみを感じてしまった。乾いた笑い。さぁ、どっちだろう?

 

バーバは腐敗しているのか、発酵しているのか・・・・。

 

 

 

「ポルクの晩餐」

これは・・・一体どういうことなのだろう?豚が愛人だと?しかも、同性愛?え、どゆことなの????

本当に豚が愛人なのか。それとも豚の面をつけた人間なのか。もしくは豚顔をした人間なのか?

 

俺とポルクは心中することを思い立ち、パリへとやってきた。

 

到着した晩に食べたディナーがうまかったことから、「ポルクは餓死なんかできそうにもないよな」と俺は言ってしまう。じゃあ、それで心中しようとポルクが言い出したものだから、それ以降、俺たちは何も食べずに一日中パリの街をさまようのだが・・・・。

 

 

 

「季節外れのきりたんぽ」

父の四十九日法要として、父が病床で最後に食べたがっていたきりたんぽを作ろうということになった。母の手伝いをしながら思い出を語っていく。

 

父は食にうるさく、母の料理のいちいちに注文をつけていた。特に出身が秋田だったこともあり、きりたんぽについては一層うるさかった。そのことが思い返され、ふとした弾みに涙が出そうになる。

 

 

 

さぁ、いますぐ帰って大切な人と大切な思い出の食べ物を食べよう。そんなこと、いつだって出来ると思っちゃいけない。気づいたらそれが出来なくなってることなんて、いくらでもあるんだから。この短編の家族のように。後悔する前に、さぁ。

 

1作目からクライマックスで泣きそうになってた。だが、短編が進むごとに、どういうことだ?とおかしな設定になっていく。その最高潮がポルクの話。だが、最後の最後、きりたんぽの話でまた涙腺が緩む。

 

 
 

 

BGM BUMP OF CHIKEN『魔法のスープ』