冷たい熱帯魚/園子温 (2011)
監督:園子温
脚本:園子温、高橋ヨシキ
出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲
用意は、いいか。
2009年1月14日水曜日午後9時11分。どしゃぶりの雨の中を一台の車が走っていた。車内には、小さな熱帯魚屋を経営する社本信行(吹越満)とその妻、妙子(神楽坂恵)の2人。娘の美津子(梶原ひかり)がスーパーマーケットで万引きしたため、店に呼び出されたのだ。その場を救ってくれたのは、スーパーの店長と知り合いの男、村田幸雄(でんでん)。村田は同業の巨大熱帯魚屋、アマゾンゴールドのオーナーだった。帰り道、強引に誘われ、3人は村田の店へと寄る。そこには村田の妻・愛子(黒沢あすか)がいた。村田は、美津子にアマゾンゴールドで働くように勧め、翌日から美津子は女子従業員たちに交じって勤務をスタートさせる。継母である妙子が嫌いだった美津子は、住み込みで働く“新生活”を素直に受け入れていた。しかし、無力なのは社本だ。恩人である村田の強引さに引っ張られるばかりで、全く為す術がない。しかも彼はアマゾンゴールドの裏側で、恐るべき事態が進行していることをまだ何も知らなかった。数日後、村田に“儲け話”を持ちかけられ、呼び出された社本。そこには顧問弁護士だという筒井(渡辺哲)と、投資者のひとり、吉田(諏訪太朗)がいた。門外漢の高級魚のビジネス話に大金融資を逡巡していた吉田だったが、堅実そうな社本の存在も手伝い、契約書に押印。だが直後、吉田は殺される。愛子が飲ませたビタミン剤に毒が入っていたのだ。「俺に逆らった奴は、みんなこうなっちまうんだよ」と社本を前に吠える村田。豹変した村田と愛子に命じられるまま、社本は遺体を乗せた車を運転し、山奥にある怪しげな古小屋に辿り着く。村田と愛子は、風呂場に運んだ死体の解体作業を慣れた手つきでやってのける。細切れにされた肉と内蔵が詰め込まれたビニール袋、そして骨の灰。何も知らない妙子と美津子を人質に取られた社本は、それらの処分に加担することになる。やがて社本は、村田の暴走と共に地獄を体験してゆく……。
もう誰も この世界から逃げられない。
誰もが想像を絶する世界…。その衝撃は海外の映画祭で熱狂的に迎えられ、早くも世界10カ国以上で公開が決定。北野武、三池崇史等に続く日本人監督のひとりとなった、園子温。本作は監督の実体験と、1993年の埼玉愛犬家殺人事件や数々の猟奇殺人事件からインスパイアされたダーク・ファンタジー。前作『愛のむきだし』が園作品の<陽>とするならば、本作はまさに<陰>。この2作品を観て初めて、園ワールドの完成形が堪能できるといえるだろう。 一見、幸せに見えるこの素晴らしき世界も、目を凝らすと<死>と<暴力>に満ち溢れているという事実を、これでもかと我々に突きつけてくる。それは観る者によって悲劇とも、喜劇とも映る。主人公・社本を演じる吹越満が、現代の病んだ人間の苦悩を余すことなきエネルギーで熱演。そして、でんでんが『羊たちの沈黙』のレクター博士にも引けを取らない新たな<ジャパニーズ・モンスター>村田を怪演。村田の妻・愛子の『六月の蛇』の黒沢あすか、社本の妻・妙子にグラビアから本格的に女優へと転身した神楽坂恵など実力派俳優が集結。衝撃のラストシーンをどう受け止めるか?是か非か?園子温自ら“最高傑作”と謳う金字塔作品であると同時に、間違いなく2011年№1の問題作である。
◆CINRA.NET:movieニュース
園子温『むきだし特集』で過去作を一挙上映、満島ひかり出演の未公開作品も初披露
◆RO69:Cut 編集部日記
想像以上『冷たい熱帯魚』
園子温の作品にぶっ飛ばされることは、もはや当たり前のことなんだろうけど、新作『冷たい熱帯魚』にはやっぱりぶっ飛ばされた。
各方面で“最高傑作”と絶賛されているけど、これ本当に見応えのある1作。
『愛のむきだし』で一皮剥けまくった監督だが、この作品は『紀子の食卓』にも通じるファミリー・ドラマ。エログロ度は半端がなく激化しているけど、そこには笑いがあり、感動があり、とにかく予想を思い切り裏切るほどポップで観易い作品に仕上がっている。
個人的には三池崇史監督の名作『ビジターQ』に匹敵する、倒錯したファミリー・ドラマだと思う。描写はとことん過剰だけど、そこには愛があり、真実もある。自分の人生から切っても絶対に切れない“家族”の存在について余儀なく考えさせられる1本である。
エログロに弱い人には強くおすすめできないけど、やっぱり観て欲しい楽しい映画。 (内田亮)
◆COOKIE SCENE:『冷たい熱帯魚』映画(日活) [reviews]
園子温監督がこの作品を書いた頃は恋人が家から出て行ってかなりボロボロで新宿でホストにケンカ売ってわざと殴られたり「クランクイン前には警官に捕まえてと言っていた。人を殺してしまう前に」と言ってしまうぐらいに落ちていて、一緒に脚本を書いた高橋ヨシキさんにも同じようなことをしようとしても彼の方が大人で「一緒に映画やろう」と言われたらしい。
雑誌『CUT』の園監督のインタビューではこの映画を作ることで自分自身が救われたと。ラース・フォン・トリアー監督『アンチクライスト』でラースも同じような事を言っていたとのこと。そのインタビューではみんなが『愛のむきだし』ばっかり言うから嫌になったと。だから新しいスタートを切る『冷たい熱帯魚』は第二のデビュー作のようなものでジョン・レノンでいうとソロになった『ジョンの魂』だと言う事を園監督は述べている。
作品としては巻き込まれ型である。主人公・社本の家庭は崩壊している。後妻と娘の関係は最悪、その妻と自分の関係も冷えている。それがギリギリのラインで保たれながら日々が過ぎている。そして出会ってしまった男・村田により彼はその平穏な人生から転がり堕ちていく。村田は殺人の後始末に社本を連れて行く。村田の妻(黒沢あすか)と彼は手慣れたやり方で殺した相手をどんどん解体していく。社本は泣きながら吐く事しかできない。しかしこの時点で彼は車で死体を運んでいる、彼は知らぬ間に巻き込まれ共犯者になっていく。死体を細切れのからあげサイズにそして焼いて骨を粉になるまで、肉は途中の川に。そうやってその死体は透明になる。村田は社本を殴りつけたりしながら殴ってこいよと言うが社本にそれはできず、昔の俺みたいだなと言う。村田はこの作品における象徴的な父である。そしてこの作品はオイディプス・コンプレックスを扱っている作品になってしまっている。去年の東京フィルメックスでは無意識にそうなってしまったと園監督は言っていた。
園子温作品を何作か観ればわかるが園さんは家族というものを否応なく描いてしまうし題材というか大きな軸として展開する。それは大抵崩壊した家庭だったりするのだが。それが顕著なのは吉高由里子が世に出る事になった『紀子の食卓』だろう。『愛のむきだし』での主要キャラの三人の若者の家庭には問題があった。時にはそれらを置き去りにし、崩壊しかかっているものを完全にぶち壊す。家族という最も最小単位の社会。それが壊れている時点でそこにいる子供はそこから出て行くかそれを破壊し進むことでしか自分を殺さないですむのかもしれない。
この作品は『愛犬家殺人事件』をリサーチしその他何種類かの殺人事件から発想を得ながらも園監督の個人的なものをつぎ込んで作られた実話を基にしたフィクションだ。とても過剰な狂気に満ちあふれながらも極限状態の人間が放つ言葉や行動は不謹慎ながらも笑いを誘ってしまう。
例えば絶対に笑ってはいけない葬式でふいに目に入った事で笑ってしまいそうになるのを堪えながらも耐え切れずに吹き出すようなある種の不謹慎。それはなんというか見えている現実が自分の中の平凡さを突き抜けて過剰過ぎてタガが外れてしまうような、コメディと悲劇が紙一重だというそういうもの。社本が転がり堕ちていく悲劇は他者であるからこそ笑えるのだが、当事者だったらとてもじゃないが耐え切れない。
そういう堕ちていく彼はオイディプス・コンプレックスの先に何をするのか。そして最後の終わり方。彼の最後の行動は僕にとっては彼が唯一娘にできる事を父親としてしたんだと思う。彼女に語りかける言葉と彼がする行動は娘をある意味では孤独にそして自由にする。それ以外に彼には方法がなかったとも言えるし、彼が選べた最良の事かもしれない。それを娘がどう思うかはまた違う問題だとしても。
園子温作品というか園子温という人物が放つ作品は驚喜=狂気=凶器だ、しかもそれを一度でも自分の中に受け入れてしまえば麻薬だ。この魅力からはもはや逃れる事はできない。この驚喜=狂気=凶器はその人の中にあるラインを踏み越えさせてしまう、いいかい、これは簡単な話だ。踏み越えると同時に踏みとどまるのだから。この意味は難しいようで易しい。君が死まで抱えていくこの生きるという時間と生命の宿命である生殖=性が園子温作品にはあり、あなたがもしどうしようもなく誰かを殺したいのならばそれを踏み留める、救ってくれる可能性だ。
人を殺したいと思っている人の全てがこれで救われるわけではないが、届く作品というものにはその作用とやはりそこから飛び越えてしまうものが出てしまう問題は絶えず存在する。
日本が誇る映画、宮崎駿作品もといジブリの作品を観ていれば人を殺さなくてすむのだろうか? もちろんそんな事はない。連続幼女殺害犯として死刑になった宮崎勤の六千のビデオテープの山の中でラベルに唯一「さん」付けさけていたのは宮崎駿だったのは有名な話だし、『魔女の宅急便』を観た後に睡眠薬を飲んで数人の少女が自殺未遂を起こした事だってある。
表現が届くというのはそのプラスもマイナスも起きる。その表現が表現としての強度や精度、スピードがあれば。単純な消費だけの表現ではそこには辿り着けない何かが潜んでしまう。僕はそれを園子温という才能に出会って身にしみてわかったんだ。園さんという人に実際に会って話をして酒を飲んで感じた事はこの人は映画を撮らなきゃダメな人なんだ。そしてそれをわかり支える人がいる。だからこそ映画は世の中に出て行くのだけども。
どうしようもなく選ばれてしまった側の人だと寂しくもなる。三池崇史さんが「狂人が作るべきなんですよ映画は」と言うのはわかる。どこかが欠落しているのだ、それを埋めようと作り続けて壊しては作る。園さんの作るペースはかなり速い、『冷たい熱帯魚』の次の作品もクランクアップして待機している。
『ゼロからの脚本術』で園さんが語っている「やっちゃいけないことは、ひとつもない。これは映画に限らずだけど、そういうものを破っていくのが快感だし、破るべきだと思う」と。 (碇本学)
◆CINRA.NET:movieニュース
園子温の新作『恋の罪』が2011年内公開決定、水野美紀ら3人の女優による愛の地獄
『愛のむきだし』『紀子の食卓』などで知られる園子温監督が、最新作『恋の罪』を完成させたことがわかった。
『恋の罪』は、現在公開中の『冷たい熱帯魚』に続き、実際に起きた事件からインスパイアされて制作された作品。渋谷区円山町にある今にも崩れ落ちそうなアパートで起きた殺人事件を題材に、壮絶な愛の地獄を鮮烈な映像で美しく描き切る。
刑事、大学助教授、主婦という立場の異なる女性たちを、水野美紀、冨樫真、神楽坂恵の3人が演じ、セックス、生と死、家族などを通して壮絶なドラマを繰り広げるとのこと。公開は2011年内を予定している。
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世界が絶賛!『愛のむきだし』を超える、園子温の手加減無しの猛毒エンターテイメント
園子温監督作品「冷たい熱帯魚」公式サイト
2011年1月29日よりテアトル新宿ほか全国にて順次公開