$縮まらない『何か』を僕らは知っている-billion voices
billion voices/七尾旅人 (2010)

ヘッドフォンどんどん季節は流れて

01. MIDNIGHT TUBE
02. I Wanna Be A Rock Star
03. one voice(もしもわたしが声を出せたら)
04. 検索少年
05. シャッター商店街のマイルスデイビス
06. BAD BAD SWING!
07. なんだかいい予感がするよ
08. あたりは真っ暗闇
09. beyond the seasons
10. どんどん季節は流れて
11. Rollin' Rollin'
12. 1979、東京
13. おめでとう
14. 私の赤ちゃん


Little More:snoozer
 七尾旅人という作家は、これまでもずっとその可能性そのものを祝福し続けてきた。「誰もが歌えるし、すべては歌である」という数年来の彼の主張は、その最たるものであり、それは『billion voices』という本作のタイトルと内容にも繋がっている。どんな時も彼の武器は自らの可能性を阻害しないことであり、実際、彼は何だって出来た。3分間のポップ・ソングだって書けるし、希代の即興演奏者達とも共演出来るし、CD3枚組のコンセプト・アルバムだって作れてしまう。そう、本作がリプリゼントしている通り、実のところ、すべては可能なのだ。
 だが、ただ一つだけ限界がある。それは世界には七尾旅人は一人しかおらず、必然的に彼の1日は24時間でしかなく、彼の無限の可能性はその時間という足枷からは逃れることが出来ない。誰もが知っている当たり前の話だ。勿論、彼もそんなことはわかっている。だが、これまでもずっと彼はそうして当たり前のことに意識的に楯突いてきた。そうせねばならなかった。何故なら、彼がその活動において何よりも証明せねばならなかったのは、可能性そのものだから。だが、もし例えば、前作『911FANTASIA』を、機材の説明書を一から読み出して、たった一人でゼロから作る時間を別なことに使っていたら、彼は今頃、本作のようなアルバムを何枚か作れただろう。実際、本作の最終曲“私の赤ちゃん”を筆頭に、すでに当時の彼には多くのファンが音源化を待ち望む、いくつものライブ・レパートリーがあった。にもかかわらず、彼は前作を作ることを優先させた。もしかすると、それは彼にとっても大きな損失だったかもしれない。つまり、彼の敵もまた可能性そのものなのだ。
 間違いなく本作最大のハイライトだろう“どんどん季節は流れて”は、ある意味、時間という制限と可能性の葛藤を歌ったものでもある。「どうしてもこの世界に喜びは満ちないの?」――どれだけ何かに懸命に追いつこうとしても、時間は少し先へと過ぎ去ってしまう。だが、この甘く官能的なソウル・ポップに乗せて、彼はそれを嘆いたりするどころか、自明の理として受け入れ、むしろ慈しもうとする。誰もが何だって出来る。だが勿論、出来なくても構わない。つまり、すべての可能性を祝福する作家は、同時に、すべての限界を慈しむ作家でもあるのだ。その事実に僕は素直に感動する。 (snoozer#080/田中宗一郎)




ヘッドフォン検索少年



ヘッドフォンone voice(もしもわたしが声を出せたら)


◆cookiescene.jp:reviews
七尾旅人『ビリオン・ヴォイシズ』(Felicity)
 「初めに言葉があった...すぐ後からドラムと原始的なギターが続いた」そんなふうに聖書の言葉を引用しながら、自らの音楽を語ったのはルー・リード。そう言えば、七尾旅人もライブで「ワイルド・サイドを歩け」をカバーしていた。歌詞を日本語に置き換えたシンプルなアレンジ。オリジナルの印象的なベース・ラインよりも、登場人物たちに深い眼差しが向けられていた。その眼差しの向こうから、愛すべきオカマたちが言う。「坊や、ワイルド・サイドを歩きなさいヨ!」と。オカマたちの声がルー・リードの歌になり、七尾旅人に歌われて、また、オカマたちの声になる。「初めに言葉があった...」確かにそうかもしれない。その時、僕は愛すべきオカマたちの声を聞いた。

 そんなオカマたちの声に感化されてしまったようなサラリーマンが会社に辞表を叩きつける「I Wanna Be A Rock Star」で、このアルバムは幕を開ける。今は2010年。その姿をどこかで、誰かがYouTubeやUstreamで見ているかもしれない。その声は僕たちにも聞こえる。あるいは僕たちの声そのもの、なのかもしれない。10億の声がある。

 歌うことへの気づきとためらいが描かれる「One Voice(もしもわたしが声を出せたら)」、君の声をパソコンで探し続ける「検索少年」、ろくでもない風景がぶよぶよに肥大する「シャッター商店街のマイルスデイビス」と「BAD BAD SWING!」。前半は声をモチーフとした様々なイメージが描き出される。そして後半。「なんだかいい予感がするよ」からは、その声が今を語り始める。まるで夢からさめたように。そこには、暗がりに手を伸ばす男がいる。止めようもない時間の流れがある。過去と現在が交差する。そして、生命の誕生から未来へ。

 ジャケットデザインは偶然にもM.I.A.の新作と同じく、パソコンの動画画面がモチーフ。ウェブをフル活用したコミュニケーションや音楽制作への柔軟なスタンスなど、この2人のソロ・アーティストには共通する意識が感じられる。このプログレスバーが意味することは、たぶん「見る=自覚」と「動く=行動」ということ。まず、声を出してみよう。そして、誰かの声に耳をすまそう。

 初めに言葉があった...。すぐ後からフォークやブルース、R&B、そしてポップなエレクトロニカまでが続いてゆく。自由に。 (犬飼一郎 aka roro!)

◆CINRA.NET:七尾旅人インタビュー
「何億もの声」から見えてくるもの

◆ototoy 特集:七尾旅人
音楽の狂気を食った男
七尾旅人とニュー・アルバム『billion voices』


◆blues interactions:リリース情報
あらゆる現場から熱狂を持って迎えられた2009年の奇跡、
七尾旅人×やけのはら名義のシングル“Rollin' Rollin'”から約半年。
待望のNEWアルバムいよいよ発売!
10年代の幕開けを祝う超名作がここに誕生。



$縮まらない『何か』を僕らは知っている-NO MUSIC, NO LIFE?


何億もの声が一気にあふれだした21世紀に、七尾旅人が放つ渾身の一声!
音楽のきらめきに満ちた最高傑作。
大人気のRollin' Rollin'、検索少年、どんどん季節は流れて、
そしてUAにカバーされた、私の赤ちゃんを含む、名曲ばかりの全14曲。

5th Album 『billion voices』
2010.07.07 On Sale