縮まらない『何か』を僕らは知っている-downy


『無題』(4th)は、ダウニーのキャリア中でも、最も荒々しく、
そして、最もハードコアな表情を持ったレコードに仕上がった。
脳髄を吹き飛ばすかのような、圧倒的な音圧と、
粗くアグレッシヴなバンド・アンサンブルが一体となって、
どこまでも聴き手の意識を覚醒させるレコードだ。
「単なる空気の震動が、何故、ここまで僕らの心を打ち震わせ、
そしてムーブしてくれるのだろうか?」――きっと、あなたに、
そんな「音の神秘」を改めて思い込こさせてくれるはず。
前作に続いて、ダウニーはまた一枚、マスターピースを作り上げた



 かつて、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが、“アンフェタミン・アルバム”として世に名高いアルバム、『ホワイト・ライト/ホワイト・ビート』をレコーディングした際に、当時の録音技術と機材の限界を越えた音量/音圧レベルでホワイト・ノイズの爆音を鳴らし続けたことで、あわやマスター・テープが焼け焦げそうになりかけた、という有名な逸話がある。ダウニーのニュー・アルバム『無題』(4th)は、思わずそんな逸話を連想させる、かなりエクストリームな「ハードコア・アルバム」だ。まずは、アルバム冒頭、“弌(イツ)”の一音目、いきなり飛び出す爆音に、誰もがギョッとさせられるだろう。エレクトロニカ的サウンド・プロダクションを全編に鏤め、緻密で洗練されたダウニー的世界観到達点となった前作『無題』(3rd)からは一転して、生バンド演奏の持つダイナミズムにフォーカスしたアルバムに仕上がっている。そう、本作は、彼らがモグワイ、ゴッドスピード・ユー! ブラック・エンペラーといった音響/チェンバー・ロック以降のシーンの突端に立つ存在であると同時に、フガジ以降のハードコア・サウンドを更新し続けているバンドであることを、改めて気づかせてくれるだろう。勿論、前作までの、うっすらと憂いを帯びた、青木ロビンによる、ギリギリまでエモーションを抑制したメロディと、寂寞感のある、ひんやりとしたサウンド・プロダクションも健在だ。一発録りによる粗くプリミティヴなサウンドが、途方もない怒りのフィーリングを喚起すると同時に、底なしの哀しみのフィーリングも感じ取れるという、かなり不思議な手触りのレコードになっている。(松田健人)


縮まらない『何か』を僕らは知っている-無題4th
無題(4)/downy (2004)

1. 弌(イツ)
2. ⊿(デルタ)
3. underground
4. Fresh
5. 漸
6. サンキュー来春
7. 木蓮
8. 「   」
9. 暗闇と賛歌


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 アルバム1曲目の“ 弌(イツ)はまるで全盛期のチャーリー・ミンガスのように聞こえるし、2曲目の“△(デルタ)”が始まった瞬間に、何故かミッシェル・ガン・エレファントを思い出した。こうした感想はどれも幼稚な印象論にすぎないので、それぞれの固有名詞は無視してもらって欲しい。僕が伝えたいポイントは、ひとつ。これは、ダウニー史上初と言っていいほど、ロック・バンドとしての肉体性とダイナミズムを全面に押し出したアルバムだということ。とにかくダイナミック。血沸き、肉踊る。これまでのダウニー作品には、演奏――特にリズムがどれほどアグレッシヴだったとしても、ムーディなコード感のせいで、全体的なモードとしては、どこまでもズブズブと沈み込んでいくような感覚が良くも悪くもつきまとっていた。変拍子のビートにしても「普通のビートじゃ、普通になってしまう」という、必然というよりは消極策に感じられなくもなかったのが、ここでは、「変拍子の方が盛り上がる」というダイナミズムをストレートに追求した結果のように感じられるのだ。全9曲33分というコンパクトな長さにまとめられたことで、さらにシャープさが増している。ある意味、ロックへと回避したソニック・ユース新作を連想してもらってもいいかもしれない。いや、でも、やっぱりミンガスだな。
(snoozer#045 田中宗一郎)