$縮まらない『何か』を僕らは知っている-珈琲時間
珈琲時間/豊田徹也 アフタヌーンKC (2009)

前作『アンダーカレント』から4年。
豊田徹也の新作登場!

コーヒーがあるだけで、世界はこんなに美しい。

◆人生の奥行きを味わう17編

 打ち合わせや何やで珈琲を飲む機会が多いので、ある時から「1日1杯」に決めた。ふと「珈琲が飲みたくなって」東京―神戸間500㌔を、バイクで駆けた知人もいる。嗜好性が強く、世界中で愛されている珈琲の背景には、褐色の液体が媒介となった多くの日常やドラマが存在する。そんな珈琲をモチーフにした短編集を発表したのは、淡々としたリズムと深い洞察力で、人の心の奥底に潜む痛みや疼きを描いた『アンダーカレント』の豊田徹也だ。
 訥々と流れる人生の最も絵になる部分を鋭利なナイフで切り取り、12㌻に抽出した短編は全17編。そのすべてが、ロースト時間を変えた珈琲豆のように異なる味わいを持つ。自宅の小さな台所で珈琲豆を焙煎しながら、生きる意味について語り合う叔母とめい。一線を退いた父と息子は浜辺でアイスコーヒーを飲み、かつての友が今は銃口を突きつけあいながら一方の手で珈琲を入れ、昔話に花を咲かせる。これらの短編が、少し苦味のあるフルシティローストなら、お人よしの探偵やうさんくさい風体なのに憎めないサングラスの男が登場するユーモアをたたえた短編はミディアムローストだ。
 より精緻を極めた線に、無意識のうちに立ち上がった表情の切り取り方、前作のキャラが登場する演出もニクい。一話一話をストレートに味わうのもいいが、SFあり、ハードボイルドありの17編をブレンドすることによって生まれた奥行きを、心ゆくまで味わおう。 (山脇麻生)


アフタヌーン「珈琲時間」作品紹介|講談社コミックプラス

2009年12月22日発売