$縮まらない『何か』を僕らは知っている-雨に撃たえば...!disc2
雨に撃たえば...!disc2/七尾旅人 (1999)

ヘッドフォンガリバー2

でかい音でレコードかけた。ねぼけ眼で君が起きた。
わかっちゃいない。  わかっちゃいない...なんにも。
君が じゃない。  君がじゃない、僕が。ダッセエな..。

触れたなら こわれそうだった。触れたなら こわれそうだった。
君が じゃない。  君がじゃない、僕が。
僕の指が。
僕の指が、ねぇホラ... ブッ壊れ。

「ひどい?」(最後のやつを、僕は使う。使ってしまう...!)
灯りを...そう。   消そう。
延滞したビデオを見よう。
医療の最先端てやつはすごいね、僕を見ろよ。

こ...う...。 『プーティ ウィッ?でしょ?』

う、2度と言うなよ、おまえは鳥じゃない。
...僕もね、鳥じゃ ない。

君が からだをsellことを、僕が悲しまないわけを。

春が来て... 春が来て、僕ら 目黒川沿い。
桜に埋もれてしまう。

なあ...! おれら、間の
超微細な時差が
サビシサやカナシサやウレシサの...
うっせぇな うっせえよ

僕はなんにも わかってない。
自分のファンタスティックなからだのみを信じる。
歌を。詞を。・・・・・・(書くとき発汗するんだ)

心配しないで...。 平気だよ
(色んなヤバいめ 見てきたんでしょ?)
ごめんな。テグジュペリ読んだ?海底に住んでんの。
おれが震えたくらいで そんな泣かないで...。
泣かないで。 泣かないでよ...。
泣かないで。 泣かないで。
ねえ。
心配症――。
すぐよくなる。  ぜったいな。

灯りを...そう。 消そう。
延滞したビデオ、ビデオ見よ...。
医療の最先端てやつはすごいぜ、 ホラ。
泣かないで。 泣かないで。泣かないでよ...。
泣かないで。 泣かないで、もう...。

(言いたいな...)
おれ  おまえの声が  おまえの目が
おまえのアイディア、本名、しぐさ、料理が 本当.....。
...うまく言えない。
一緒なんだ...そうだった。

僕は大丈夫さ、どこも痛まない。
僕は大丈夫さ、どこも痛まないから...。
そばに...。
ほら、そばに。

最低か?って なワケ無え。
君のからだに歌を描こう。
君は綺麗で、僕も綺麗だから...。
知ってた?  あ、待ってて。
爪 短いんだよ。 プルタブ開けらんない。
僕らの恐怖を 混ぜ合わせよう。
体温だけは、信じてられるかな。
こわばる。
冷たい汗。


$縮まらない『何か』を僕らは知っている-七尾旅人

 世界というサーカス小屋に、ピンク色のピエロが鞭打たれながら、そのボロボロの姿を現す光景で幕を開ける60分の叙事詩。社会から隔離され、幻想の世界に捕らわれ、自ら感情を封印することでどうにか正気を保っていた魂が、発狂寸前の恐怖と狂気の淵まで降りていきながら、現実というもうひとつの地獄の彼岸にどうにか辿り着くという、壮大でいて、ありきたりな「19歳の光景」がしっかりと刻印されている。世界中のノイズをくまなく受信するアシッドヘッド状態の万華鏡サウンドが、アルバム全編でぐにゃりぐにゃりとキミを探している。言葉と音と世界とボクがすべての境界線を失う中、「テクノ以降」の音の質感と、「ローファイ以降」の漂白されないエモーションのヒダが見事に混ざり合って、ファンタジックな物語を形作っている。
 透明なガラスの表面を滑り落ちていく水滴のような涙色をしたアルバム前半。通低音として鳴り続ける哀しみや不安の中、本当にちっちゃな気泡のような喜びがポッと浮かび上がるアルバム後半。このグラデーションに、僕はこの上もないほど感動する。奇跡的名曲“バニフォー~”1曲を何度繰り返し、聴き続けたことか?! このアルバムを僕はとにかく日本人以外の人間に聴かしたくて聴かしたくてたまらない。そして、こう言うのだ。ほら、世界はまた新しい言葉を見つけたよ! (SNOOZER#014 田中宗一郎)