$縮まらない『何か』を僕らは知っている-ブラステッド
ブラステッド 1/室井大資 エンターブレイン (2009)

暴力は“有効”という事実

 世の中には暴力団というストレートなネーミングの集団が存在する。社会的には歓迎されないはずのものが、根強く存在しているのはなぜか。その理由一端が、本作を読んでわかった気がした。
 主人公は、暴力団の末端で裏カジノなどを仕切る男。しかし、彼に自分が組員との意識はあまりない。たまたまバイトしていたバーが暴力団系で、気がつけば裏の世界に足を踏み入れていた。日々の仕事は店の切り盛りと組の帳簿管理で、<それが俺>と思っている。
 そんな彼が、ある日突然、死体遺棄を命じられる。初めての“汚れ仕事”に疲れきって組事務所に戻った彼が見たのは、惨殺された組員たちの死体と、無表情にそこに佇む4人の男だった・・・・・・。
 圧倒的な暴力の渦に巻き込まれて、今さらのように彼は気づく。

 <戦場で/道端で/この世界で/暴力は有効に機能している>

 そう、善悪はどうあれ、暴力は“有効”なのだ。そして、人間が、(とりわけ男)にとって暴力が、恐怖と同時にある種の陶酔をもたらすのも悲しい事実。だから戦争も暴力団もなくならないし、暴力を描いた作品にも惹かれるのだ。
 ただし、本作で描かれる暴力に狂熱はない。ただ無慈悲に乾いている。だからこそ、よけいに凄みがあり、その闇に吸い込まれそうになるから怖い。絵柄に既視感はあるものの、白黒のメリハリの利いた画面、躍動感ある構図とコマ割り、クールなセリフ回しは一級品。何とも危険な匂いがする。 (南 信長)