縮まらない『何か』を僕らは知っている-無題

無題(2)/downy (2002)


1. 葵

2. 夜の淵

3. 黒い雨

4. 象牙の塔

5. 三月

6. 無空

7. 犬枯れる

8. 月が見ている



圧倒的なリズム・アンサンブルに、浮遊する言霊とギターのフィードバックが交差する「静かなるハードコア」。

2枚目の「名もなきアルバム」



 ライブで必ず映像を流している、不思議なバンド?トランスに返答する(踊れない)サイケ・ロック?そんなものではない。デビュー作『無題』から一年。またしても『無題』の8曲入り2ndアルバムで彼らは化けた。ベースとドラムのアンサンブルが飛躍的に向上、サウンド全体がリズムを中心に、渾然一体となって進んでゆく。基本マナーは変拍子。「生身のループ」を主体にした、簡単には踊らせてくれない、複雑なビートのナンバーが続く。くぐもったギターはリズムの隙間を縫って飛び込み、どこかノスタルジックな主旋律を奏でる。青木ロビンの歌声ともポエトリーとも囁き声ともつかぬ特異なヴォーカル・スタイルは、完全にリズムの後景化。そのことによって、さらに象徴性を増した。それにしても、「キ」とか「る」の発語の繊細な響き!自身の小さな声を最大限に生かした方法論は、見事。

 ダウニーの音楽世界を支配しているのは、カードなしでは聞き取れぬ、青木ロビンの文語調の歌詞だ。現在形以外の動詞が一切出てこないその世界には、「たった今」と「過去」、「現実」と「記憶」の区分がない。“黒い雨”で青木は囁く。「時間って奴はやはり無意味だ」。リズムによるサイケデリック感覚を目指した、屈指の一枚。

(SNOOZER#031 䑓次郎)



縮まらない『何か』を僕らは知っている-downy