ほっぺにイカ飯 | ウズベク、ナンパ道場

ほっぺにイカ飯

宿を出たのは午前7時半。
久しぶりに目覚ましをセットしたが、そのお世話にならず午前5時半には既に天井を眺めていた。
『結局目覚まし役に立ってね~な』と思いつつ、出発の準備をする。

いかにも計画的と思われるかもしれないが、実はオシュ行きを決めたのは目を覚まし、床に落ちてる腕時計に目をやった瞬間だった。
前日携帯のアラーム設定画面で、液晶に「07:00」と表示されたときも、寝過したら夜出ればいいやと思っていた。そしてそれは、後々寝てた方が良かったのかな、と思わされる。


ビシュケクからオシュへ向かうには通常、ビシュケク内「オシュバザール」からの乗り合いタクシー・マルシュルートカを利用する。オシュとオシュで分かり易いが、読んでる分には分かり難いかもしれない。
宿を出て215番のマルシュルートカを停める。この番号のものには初めて乗車するので、運転手に『オシュバザール?』とだけ確認した。無愛想な運転手の顎髭が縦に揺れる。
僕が乗り込んだときには席が丁度一つ空いていたが、どうせ後程おばちゃんに譲る可能性が高い為、頭上に設置された手すりに掴まった。案の定、次の停留所で大きなクルグズおばちゃんが乗り込んで来た。

走る事10分、車内は身動き取れない程ギュウギュウになっていた。
運転手に『バザールへ着いたら教えて欲しい』と伝えてはいたが、運転手から僕の姿は確認出来ないはずなので、これはちょっと期待出来ないなと感じた。

走行中の車内から目的地を確認する事は、少し難しい。しかし僕は今まで乗り過ごしたという経験が殆どなかったので、内心タカを括っていた。そして予定通り乗り過ごす。
オシュバザールが見分け難いからなのか、それとも隣にピッタリくっついていたロシア人女性が可愛かったからなのか原因は定かでないけど、兎に角僕は引き返す必要があった。
そして又しても乗り過ごす。

ウズベキスタンでこんな事が起こらなかったのは、普段はアホやな~と思う彼等ほぼ全員が、親切だからに他ならない。
というのも二台目のマルシュルートカでも、一台目同様『バザール到着次第教えて欲しい』と伝えていたし、僕は運転手の真隣に立っていた。
ただこれで感じたのはクルグズへの怒りでは当然なく、自分が今まで如何に助けられていたか、こんな些細な事も出来ないのかという無力感だった。
三台目のおっちゃんは逆に親切過ぎて、僕のフェイスに唾が散るのが気になった程だ。


バザールについたのは既に午前9時半。
バザールの方々の親切に助けられ、かなりスムーズにバス乗り場を見付けたが「時、既に遅し」。正午時間帯はオシュ行きのバスが出ない為、夜間のオシュ観察という目的に早くも×印が付いた。

やる事が無いのでネットを繋ぎに、何度か訪れたwi-fi接続可能なコーヒーショップへオシュバザールより向かう。

$ウズベク、ナンパ道場-cafe
ビシュケク市内にあるwi-fi接続可能なカフェの看板

2km程歩いただろうか。道中で写真屋を見付けた。というよりも、写真屋にいる可愛いロシア人を見付けた。

『写真を撮らせて』と頼むと『ザィチェーム(何の為に)?』と言われた。
ロシア語で「why」にあたるのは、この「ザィチェーム」と「パチムー」がある。
僕の統計では、『パチムー?』と言われれば9割方撮影に応じて貰えるが、『ザィチェーム?』だと3割に激減する。
パチムーが単に「何で?」と興味を示すのに対し、ザィチェームは「何の為に?」と若干不審と感じた場合にも使用される為だろう。

しかし粘り過ぎた甲斐あって、その他の男性スタッフという余計なオマケまで付いて来たが、目的のかわいこちゃん写真を手に入れた。

$ウズベク、ナンパ道場-girl

更にオマケで、ほっぺにチューまで戴いた。というより僕がせがんだ。

そこから300m程歩くと、目的のコーヒーショップが見えて来た。
サンドウィッチが食べたかったので『ありますか?』と確認した瞬間、パソコンを宿に置いて来た事を思い出した。そうだ、オシュは危ないかもしれないから一応念を入れておいたのだった。
仕方ないので宿へ引き返す。
同じ宿の宿泊者に、『あれ?結局オシュ行かなかったの?』と聞かれたので、『オシュはオシュでも、バザールへ行って来ました』というつまらんギャグをかまし、少し昼寝をした。


夕方。
少し時間が余ったので、先ほどのコーヒーショップでメールチェック。
仕事の朗報も届いたが、何より先日アルマティで出会った、ドイツ在住の素敵な日本人から便りが届いていた。

今回ウズベクを初めて出てから、本当に素晴らしい出会いが多い。というよりも、「出会い」という時点でそれは大体素晴らしいのかもしれない。
この部分については、機会を見て後述する。


さて、再びオシュバザールへ。
朝オシュまでの料金を確認したが、或るドライバーは2,000som(約4,000円)と言っていた。
宿で詳しい方に伺うと『800で行けるんじゃない?』との事だったので、1,000くらいなら良いかと思った。
そして一発目から"1,000somの男"が現れる。

僕の悪い癖かもしれないけど、それなりに妥当な値段を一発で言われると即決してしまう。初値を高く提示されると、値切り過ぎて終値は安くなるという不思議だ。
交渉の煩わしさを解消してくれた事、少ないが時間を節約してくれた事への対価と思っている。一発目で完璧な値段を提示された場合は、チップまで払う事もある。

感覚が欧米化して来ているのかもしれないが、これはこれで一つのやり方だと思っている。ウズベキスタンでガイドをしている友人に、『日本人は本当にチップをくれない』と言われた事も影響しているかもしれない。

ダラダラと書き連ねてしまったが、兎にも角にも僕の体は、ウチの父親が乗っているトラックの運転席を彷彿させるマルシュルートカに包まれて、12時間彼方のオシュへと運ばれる。
僕は彼のトラックに乗り込むのが大好きだった。あの誰にも負けない高さから眺める景色と、海釣りの撒き餌の小海老の匂いと、イカ飯の味は今でもハッキリ憶えている。
きっと素敵な旅となるだろう。