『日本で求められるパタンナーの実情』 | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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<本日の記事はフリーランスパタンナー北村悦子さんに寄稿していただきました>



一回目の投稿では今自分が一番気がかりに思っていることを題材にしました。
でも書きながら「これって日本だけの事・・?」と疑問に思っていました。
寺西さんの記事でイタリアの現場の様子を知ることが出来、とても参考になります。
手で作れる人コンピューターで作る人、と分けて考えられているという話、大変興味深い内容でした。(参照記事:手作業の重要性・コンピュータの役割 (後編)
日本の場合、中には手で作れる事の価値を理解している会社もありますが、反対にそうでない会社も少なくありません。
今日はその後者の求人事情について考えます。

パタンナーを採用する立場の人が手で作る意味を理解していなければ、ドレーピング技術など武器にならないわけです。
少し前の話にはなりますが求人広告を一度に100社以上見る機会がありました。
その中で立体裁断及び仮縫いが出来ることが条件なのは僅か一社でした。
またそこはチーフを募集していたので厚待遇でした。
それ以外は「経験3(多くて5)年以上、CAD経験者優遇、35歳以下」そればっかりです。
この事実を目の当たりにして愕然としました。

その原因の一つとして挙げられるのはアパレルメーカーに於けるアウトソーシング(外部委託)化が進んだことだと考えます。
本来アパレルメーカーはデザイン企画⇒生産管理⇒販売を一貫して行うものなのですが、近年ではその作業を細切れにして部分的に他社に依頼するところが増え、業態が細分化されてきています。
・企画のみ外部に委託してそれ以降は自社で行う
・企画は自社でするが生産管理は委託する
・企画生産を全て委託して販売のみ行う
など様々です。
その為デザイナー不在の会社も多数あり、会社側はパターンについては取引先とのデータの受け渡しや管理を最重要事項と考えてしまうのです。
パターンの、そして服としての完成度は後回しにして。

話を戻しますが、このような求人内容が何を意味するか。
残念ながら多くの企業がパタンナーに創造性や高い技術を求めなくなりつつあるということです。
言いかえればCADのオペレーション能力が最重要、CADが使えない熟練者に高い報酬を支払うならCADが使えて一応服の形にパターンが引ける経験の浅い人を低賃金で雇いたい、ということでしょう。
何を持ってして優秀なパタンナーなのか、一技術者としては非常に温度差を感じます。
こうして私の様にそこにジレンマを感じるデザイナーもパタンナーも今ならまだたくさんいると思います。
ですがあと10年、20年先誰も疑問にさえ思わなくなってしまうのではないかと焦燥感に駆られるのです。
幼い頃より私にとって熟練の技術者とは魔法の手の持ち主、まさにスターでした。
だからいつしか自分が選んだこの職業が「子供たちのあこがれの職業TOP5」くらいに入って欲しいとずっと願い続けてきました。

嘆いたところで放って置いてはこの問題を誰も解決してくれないでしょう。
このままではパタンナーの醍醐味みたいな部分を取り上げられてしまいます。
日本の国民性かもしれませんが、パタンナー含む技術者は受け身に徹してしまう性質の人が多いように思います。
しかし技術者達自らが感覚的スキルの価値を周りに理解してもらう努力が必要ではないでしょうか?「わかってくれない」ではなく「わかってもらおう」です。
CADが使えないことが障害になるのなら、場合によっては習得する必要もあるかもしれません。
口下手だと言うのなら人に自分の意図を伝える勇気と訓練が必要かもしれません。
一人二人では変わらなくても大勢がその地道な努力をすれば、いつか求人内容に変化が表れる日が来るかもしれません。

周りを説得するにはパタンナー各々が技術と感覚を磨き続ける必要があるでしょう。
「ほら、機械と紙だけでこんな服作れる?」と胸を張れるように。





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