ファッションに新しさは必要ない? | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 ファッションとは本当に変わったモノです。まず第一に、これだけ技術が日々進歩し、車や家電製品その他諸々の最先端の技術が積載され、驚く様なものが登場したと思えばもう数年後には新しいものが次々と開発される一方、ファッション産業はもちろん新しい素材の開発や、量産技術の発達等はあるものの、出来上がる製品は20年前と比べてびっくりする程変わったとは言えません。これは、他の同じ製造業と比べるととても驚くべきことだと思います。


 例えば服、服は完全なマシンメイドはまだ実現されていないし、実際人間の手が多く加わっています。しかもいわゆる量産既製服(prêt-à-porterプレタポルテ)よりも高級仕立て服(haute couture:オートクチュール)と呼ばれるオーダーメードの手作業の込んだ一点モノの方が上位に位置し、より高級でより良いものだと認識する傾向が一般的です。それはなぜでしょうか?人の手が加わるものの方が高級だから?手作りには一つ一つ味があるから?時間がよりたくさんかかるから?


 では製造業の代表、で考えてみましょう。今、機械を使う過程をほとんど採用せずに、それでいて気が遠くなる程の時間をかけて作られた、ほぼ完全手作りの車があったとします。そんな車を心の底から良いものだとして普通の乗用車より数倍もお金を出して買おうとするでしょうか?もちろん欲しいという人もいるかもしれません、が少なくとも僕は思いませんし、多くの人は普通の車を欲しがるのではないでしょうか。なぜなら機械で確実に一定の精度で処理されたモノの方が何か安全性、正確性、均一性を感じるからです。テレビにしてもそうです。全行程手作りだからと言って一台ずつ映りが若干違うような、ありふれた言い方をすれば一つ一つ味のあるテレビなんかはちょっとイヤですよね。でも、洋服にはそう言った手の暖かみ、人が作ったという背景に対して違和感を感じない、むしろ肯定的に感じられる。これは、人が洋服に対して人間が人間の能力を超えてより快適な生活をしようと思う“利便性”というものを求めていないということがまず挙げられます。利便性を求めると、もはや人間が持つ元々の能力に頼る事が出来ないので、機械(メカ)というものの力に頼らざるを得ません。現代ではメカは有機物ではないので、利便性=機械(メカ)の役割というイメージから“利便性”に機械的であることを自然と求めるのだと思われます。さらに言えば、人間とモノとの物理的距離感、もしくは精神的距離感の問題もあります。これが遠ければ遠い程、機械的である事が良いとされ、近ければ近い程、人の手の温もりであったり、さらには自然・天然に近い、といったことが求められる傾向があるように思います。服は距離的にも人間の肌に直接触れるものですし、以前にも話した通り人の気持ちに深く影響するツールでもあることから(参照:衣料とブランドとファッション 前編)精神的にも近い存在ですので、そういった全てが機械化された方法で作られる事よりも、手作業で作られた事に特別な価値を見いだせるのではないでしょうか。


 という様に考えると、洋服そのものに車やパソコンの様な大革命、大技術革新が無いのは、そもそもそういうことを人が望んでいる訳ではないのかもしれません。知り合いのデザイナーの方が、とてもいいことをおっしゃっていました。「人は洋服に“新しさ”を求めているのではない、“新鮮さ”を求めているのだ」と、確かになるほどですね。その通り、ファッションの歴史は循環すると言ってもいいくらい、過去のものが現れては消え、また現れては消えを繰り返します。よく80年代ルックとか~年代とかそういった言葉を聞きますが、飽きることを知っている人間に対して“新しさ”ではなく“新鮮さ”を追求すると、その時代に合った新しい要素を組み込みながら自動的に歴史を繰り返す事になります。つまり、ファッションに新しさは“敢えて”必要はないのです。


 ただし、歴史の上ではそんなファッションに対しても“新しさ”を提案してきた素晴らしいデザイナー達が存在する訳です。明日に続きます。




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