終末の唄_066 | talk show

終末の唄_066

「わたしはそのまま、だれにも言わずにアパートへ帰りました。
 それから何日か、仕事にもいかずに、わたしはひとりの部屋で、じっとうずくまっていました。
 わたしのこころはずたずたに傷ついていました。
 やっと掴むことができた希望の光が、また暗黒の中へと消え去ってしまったのです。
 おわかりですか? 一度掴んだはずの希望が崩れ落ちてしまうときの絶望は、それを手にする前の絶望よりも、さらに深く、さらに陰険で、さらに呪われているのですよ?

 わたしはもう、何もかもが、どうでもよくなりました。
 ただ、わたしのこころをこんなにした由加が、憎かった。
 彼女を含むこの世界のすべてが、憎かった。
 わたしはすべてを呪った。
 この呪いで、この世をすっかり消し去りたかった――。

 そしてその夜、あいつが、〈銀色の男〉が、現れたんです」

〈銀色の男〉?」

 チェン先生の指が、一瞬止まった。

〈銀色の男〉はどこからともなく現れて、しらぬ間に、わたしの背後に立っていました。
 そして彼は、わたしにある提案を持ちかけてきたのです。

よう、どうだい? オレ様と契約しないかい?
 オレ様がこの世界を地獄におとしめて、おまえの無念を晴らしてやるぞ。
 そのかわり、おまえのその身体を、オレ様によこせ。
 どうだい、いい話だろう?
 オレ様にはおまえのこころが読める。
 おまえはもうどうせ死んだっていいって、思ってるんだもんな。
 さあ、どうだい?


 わたしは、これはきっと夢だな、と思いました。
 それに、ヤツの言うとおり、そのときのわたしは、死んだっていいからこの世界を呪いで破滅させたい、と思っていたんです。
 だからわたしはすぐに、いいさ、と答えてしまったんです。

よしきた!

〈銀色の男〉は、契約の証だと言って、おもむろにわたしの口の両端に尖った人差し指を突っ込み、それからちから任せに左右に引っ張り、わたしの口を耳元までべりべりっと裂いたんです
 わたしはそこで、気を失いました――。

 朝、目を覚まし、鏡を見てわたしは、全身からちからが全部抜けるぐらい驚きました。
 わたしの口が、現実に、実際に、大きく裂けていたのです。
 これは何かの間違いなんだ、とわたしは思い込もうとしました。
 けれども何度見直しても、やはり間違いなく、わたしの口はみごとに裂けていたのです。
 わたしは身震いしました。
 これは、大変なことになった、と直感しました」

To be continued.