終末の唄_053 | talk show

終末の唄_053

「悲しんだよ? アタシだって。もちろん。どうしようもなく、とことん。
 でもよ、いつまでも、そうしているわけにもいかないだろう? だからアタシャ、その悲しみを仕事に打ち込むことで乗り越えようとしたんだ。
 必死でがんばったよ。それこそ、寝る間も惜しんでさあ。青田の行方を追いながら、そのほかにもいろんな事件を片っ端から追いかけた。
 ほら、鬼刑事とかって、よく言うだろう? まさに、それよ」

 真栄田刑事は、そこでひと呼吸ついた。

「そして、早紀が事故にあって死んでからちょうど一年後、アタシの執念が実って、やっとこさ探し続けていた青田を見つけだし、ついに逮捕したんだ。
 うれしかったねえ。ざまあみろ、だ。
 するとヤツは、アタシに向かってこう言ったんだ。

『あんた、オレを逮捕できて、うれしいかい?』てな。

 だからアタシャ、言ってやったんだ。ああ、もちろんさ。うれしくって、うれしくって、これで夜もぐっすり眠れるってもんよ、ってね。
 そしたらヤツは、またこう言い返すんだ。

『オレもうれしいよ。あんたに親父(組長)を殺られちまったけど、そのときオレたちが受けたのと同じ悲しみを、一年前のあの日に、オレはあんたに返すことができたんだからな』ってね。

 どういう意味だあ? 何だ、それは? って、咄嗟に訊き返したよ。
 ヤツの胸ぐらをぎゅうぎゅう締め上げながら、何度も何度も、な。
 わかってたよ? すぐに。ヤツが言ったことばの意味は。
 だけど、そのときのアタシャ、それを認めたくはなかったんだ。
 一年だぜ? アタシャ、ぼんくらにも、ヤツに嫁さんを殺されたことに、じつに一年も、まったく気づかずにいたんだからな」

 津川刑事は左手にコーヒーの入ったコップを持ち、右手だけでハンドルを握り、何も言わずに運転を続けた。
 前方に分岐点の大きな案内看板が見えてきた。
 ふたりが乗ったクルマは、その分岐を左に入っていった。

「それからのアタシャ、完全に壊れてしまったんだ。
 もう何も感じることができなくなっちまった。そんな状態のことを、〝ディソシエーション〟って、言うんだってな? そのとき無理矢理連れていかれた精神科の先生が、そう言ってたよ。
 アタシャ仕事もせずに、家の中で、毎日毎日、ごろごろと寝ころんで天井ばかり見つめていた。
 何も考えちゃいないんだよ? ただ、ぼーっとしてるだけさ。身体から気力というものが全部抜け落ちてしまって、どうにも動くことができなかったんだ。

To be continued.