終末の唄_050 | talk show

終末の唄_050

 ハイウェイは、湾岸の埋め立て地をかすめて走る。
 エアコンの吹き出し口から、かすかな潮の香りが運ばれてくる。
 広い平野に立つ建設中の鉄筋の中から、キリンの首のようなクレーンが、何本も顔をのぞかせている。
 黒い海の上を泳ぐ波頭は、月の光に照らしだされて、どこまでも続く白い鱗模様をつくっている。
 遠くのコンビナートのエレクトリックな光は、ダイヤの粒のようにきらきらと眩しく輝いている。
 そしてふたりを乗せたクルマは、やがて恐竜の骨格のような赤茶けた大きな鉄橋の中をくぐる。

「――ところで、あのリトルリーグの事件以来、〝夢遊殺人〟、起きてないっスね?」と津川刑事が、言った。

「そうだな」

「このまま、終わっちゃうんっスかね?」

「さあてな。そいつはわからんよ」

 真栄田刑事は、彼らの前を走るクルマのテールランプがつくる赤い光の線を見つめたまま、言った。

「おやじさん、そういえば確か、犯人はほかにいるって、言ってたっスよね?
 事件の犯人は、全員現行犯で逮捕されたけど、それでもまだ、そう思うんっスか?」

「なあ、カズ。
 アタシがまだ、こうやってお前さんとつるんで、犯人追いかけていられる間に、ひとつ大事なことを教えといてやるよ。
 いいか?」

「はい」

真実というのは、簡単には見えないところにある」と真栄田刑事が、言った。

「ようく覚えとけ」

「――はい」

 津川刑事は少し首を傾げながら、真栄田を見た。

 空いた高速を、ワインレッドのブルーバードが、ゆっくり過ぎるスピードでふたりのクルマの前を走っている。
 津川刑事は、右に車線を変更してそれを追い越し、すぐにまた左側の車線に戻った。
 そのとき、ちょうど、事件発生を告げる無線が飛び込んできた。
 現場近辺を走行中のものは現場に急行せよ、とのことだ。

「近くっスね。どうします?」と津川が真栄田刑事に、訊いた。

「ほうっとけい。我々は今日も一日、もう充分過ぎるほど働いたよ」

 真栄田刑事はそう言うと、無線機のボリュームのつまみを、音が聞こえなくなるまでしぼった。
 そして、カーステレオのFMのスイッチを入れる。
 スピーカーから、オアシスの「スーパーソニック」が聞こえてくる。あの独特のねばっとした歌声だ。

「何だ、こりゃ? 騒がしいなあ」

 真栄田刑事は眉をひそめて、すぐにべつの局にかえた。津川刑事の方は、そのまま聴いていたかった。
 次に聞こえてきたのは、最近よく聴く、あのメロディーだった。

「これ、最近よく耳にする曲だな。あちこちで流れてるよな?」

「そうっスね。オレも何度も聴いたことありますよ、この曲」

「何て曲なんだあ?」真栄田刑事が、訊いた。

「さあ?」

「何だ。お前さんもしらないのか? まあ、いいか」

 真栄田刑事はそう言うと、またステレオのスイッチを押してほかの局にかえた。
 すると今度は、古い歌謡曲が流れてきた。

「いやあ、懐かしい歌だねえ」

 と言って、真栄田刑事はラジオに合わせて鼻歌を歌った。
 津川刑事には、その歌がだれの、何という歌なのか、まったくわからなかった。

To be continued.